オキシトシン
1 オキシトシンとは
一般名 | オキシトシン |
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商品名及び企業名 | アトニン-O注:製造販売元 あすか製薬株式会社、販売 武田薬品 オキシトシン注射液F:富士製薬工業株式会社 |
適応症 | 子宮収縮の誘発、促進ならびに子宮出血の治療の目的で、次の場合に使用する。 分娩誘発、微弱陣痛、弛緩出血、胎盤娩出前後、子宮復古不全、帝王切開術(胎児の娩出後)、流産、人工妊娠中絶 |
承認(薬価収載) | アトニン-O注 1957年5月 再評価結果 1993年3月 オキシトシン注射液F 1995年12月 |
2 取り上げた経緯
当会議では、2000年に子宮頸官熟化剤「マイリス」について厚生省と学会に要望書を提出し、公開会議などを通じてマイリス問題を明らかにしてきた。一方で、子宮収縮剤の使用による事故も減少せず、裁判例も多い。陣痛促進剤による被害を考える会では、子宮収縮剤による事故を減らすために、厚生労働省交渉等を通じて添付文書の改訂を要望しているが、放置されている。2006年に6月、厚生労働省は、日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会が発表した「子宮収縮薬による陣痛誘発・陣痛促進に際しての留意点」の活用を臨床現場に通知した。そこでは子宮収縮剤の安全な使用方法を詳細に記述しているが、その内容が添付文書に反映されていない。 そこで、オキシトシン注の使用による血圧上昇、脳出血との関連性について調査し、問題点を明らかにして、必要な添付文書改訂等を求めることとした。
3 何が問題か
- (1) 添付文書の記載について
米国におけるオキシトシンの添付文書「注意」欄には、高血圧及びクモ膜下出血による母胎死亡の記載があるが、日本の場合は、「その他の副作用」の欄に、「静脈内注射後一過性の血圧下降、血圧上昇等」との記載しかない。国内において、オキシトシンの投与による脳出血の事例が報告されているが、患者が脳出血の徴候を現す血圧上昇、頭痛、しびれの訴え、嘔吐の症状を呈していたにもかかわらず、担当医は脳出血を疑うことはなかった。医療現場において、添付文書の記載が不十分であるために、オキシトシンの副作用として脳出血が発生することが十分認知されていない可能性がある。 - (2) 適応と投与方法
オキシトシンに対する感受性は妊娠時期により、また個人差が大きく、投与開始後早期に過強陣痛が出現しやすいため、薬剤による誘発の必要性を厳密に判断し、投与に際しては最低濃度から慎重に漸増する必要がある。しかし、添付文書には詳細な投与量の記載がない。 - (3) 妊娠、分娩時における脳出血の実態
妊娠、分娩時の脳出血に関しては、「厚生省妊産婦死亡の防止に関する研究班調査結果」(周産期医学1999-2)や、母体死亡および重症管理妊婦調査と検討小委員会による「周産期センターにおける妊産婦死亡の分析」(日本産科婦人科会誌2007-6)に発生数が報告されているが、対象症例につき、オキシトシンを含む薬物使用歴が公表されておらず、陣痛促進剤と母体死亡との関係については明らかとなっていない。このように、オキシトシンと脳出血との関連性が明らかでないが故に、臨床医は、母体が脳出血を起こした場合に、薬剤との関連性を疑うことはなく、その結果、オキシトシンによる脳出血に関し、副作用報告がなされない現状にある可能性が高い。
4 基本的行動
オキシトシンによる脳出血の危険性について、厚生労働省と企業に対して、添付文書改訂と脳出血事例に関する実態調査を要望する。
5 具体的行動と結果
2008年11月28日、「子宮収縮剤オキシトシンに関する意見書」を、厚生労働大臣、富士製薬工業株式会社、あすか製薬株式会社および武田薬品工業株式会社に提出した。
要望内容は次のとおりである。
- ① 「重大な副作用」欄に、血圧上昇から脳出血に至る副作用を記載すべきこと
- ② オキシトシンの投与方法について、添付文書の「用法・用量」欄に、増量速度や維持量をの詳細な記載、母児のバイタルサインチェックの実施、過強陣痛の場合の子宮収縮剤の投与中止を追加記載すべきこと
- ③ 過去の妊産婦の脳出血事例についてオキシトシン使用との関連性を調査する研究班設置を求めること
6 今後の課題
医療現場では、オキシトシン使用時に血圧上昇から脳出血に至るという副作用についての認識が弱く、その時に発生する血圧上昇、しびれ、頭痛などの症状を子癇と判断し、脳出血に対する緊急対処が実施されない実態があると考えられる。要望書に対する回答を改めて要求し、添付文書の改訂を実現させる必要がある。
機関紙
- 2009-05-01
- オキシトシンによる脳出血の危険性