調査・検討対象

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トリルダン

1 トリルダンとは

一般名(成分名) テルフェナジン
商品名 トリルダン
承認 1990年
販売 ヘキスト・マリオン・ルセル/塩野義製薬(97.10販売中止)
適応症 気管支喘息、アレルギー性鼻炎、蕁麻疹、皮膚疾患に伴う掻痒

2 取り上げた経緯

  1. (1) 各方面での危険性の指摘
    • TIP誌(「正しい治療と薬の情報」誌)では、この薬が発売された当初から「重症の肝障害の人には使用すべきではない」と警告し、その後『肝障害や併用薬などによっては、心室頻拍から突然死を生じ得るので中止すべき』と警告。
    • 93年にも、同誌で「喘息に対する日本の臨床評価法は不適当であり、根本的に再検討し、臨床試験を再度実施すべきである」と指摘。
    • 95年、喘息管理の国際指針であるNHLBI/WHOワークショップレポートでも「テルフェナジンは有効性は低く、喘息の長期維持治療薬としては勧められない」と指摘。
  2. (2) 重篤な副作用報告
    • 重篤な副作用報告が発売以来5年間で7例、95年の塩野義製薬による「警告」後も2年間に10例(うち死亡例1)が報告されている。
    • 更に、本年8月、92年7月にトリルダンの副作用による死亡例が存在することが判明した。

3 何が問題か

  1. (1) 危険性 突然死を含む重篤な副作用の危険性があり、以下のことにより危険性が増す。
    • 患者は重篤な副作用の実態を何も知らされていない。
    • 医師が薬を処方する際に、禁忌事項のチェックをしていない。
    • アレルギー疾患の患者層が広いので継続的に多用される。
    • 眠気が起こりにくい薬なので、使用量が多くなり過ぎてもそのことを患者が自覚できず、使用期間が長引く。
  2. (2) 有効性 適応症(効能)の筆頭に気管支喘息を掲げているが、気管支喘息に効くという客観的な証明はなされていない(「全般改善度」という主観的で曖昧な評価基準に拠った評価はあるが、およそ科学的客観的評価の名に値しない)。
  3. (3) 価格 薬価が従来の抗ヒスタミン剤の13〜23倍。

4 行動指針

  1. (1) 気管支喘息については、厚生省に承認取消を、企業には販売中止を求める。
  2. (2) 他の処方についても、処方する場合は、以下の条件を満たすことを要望する。
    1. ① 代替薬のない緑内障や前立腺肥大(下部尿路閉塞性疾患)の患者に限ること。
    2. ② 医師が患者に対してトリルダンの副作用について十分な説明を行ない、かつその内容を書面にしたものを患者に交付すること。
    3. ③ 処方する患者に対しては、日常的に心電図や血液検査を行なうこと。
  3. (3) 主観的で非科学的な有効性の評価方法(「全般改善度」)を改めることを求める。

5 具体的な行動と結果

  • 97年12月、厚生大臣、ヘキスト社、臨床試験世話人代表牧野荘平氏に公開質問状と要望書を提出し、臨床医には協力要請書を送付した。
  • 厚生省からは書面による回答なし。口頭説明でも「うけたまわる」だけ。
  • ヘキスト社からは「その時代の科学的水準に合わせたもので問題ない」という文書回答があった。これに対して再度質問したが同じ内容の回答を繰り返すのみ。
  • 牧野荘平氏からは何らの回答もない。
  • (3)に関連して、臨床試験方法の全面的な改定がなされ主観的評価の排除へ。
  • 99年8月、前記92年死亡事例の存在がわかり、同年10月、改めて厚生大臣、ヘキスト社へ同様の要請。特に患者への説明の必要性を訴えた。
  • 厚生省では、「ヘキスト社は97年から患者向け説明書を出している」と言うだけ。ヘキスト社に説明書の内容を確認したところ、どのようなときに投薬を中止しなければならないかについては何の説明もなかった。ヘキスト社が自慢しなかったのもうなずける。
  • (2)②に関連して、2000年1月、アベンティスファーマ社(旧ヘキスト社)は、上記10月の要請を受けて能書の【警告】欄を改訂した。「適応患者の選択を慎重に行うこと」「本剤服用中の患者にふらつき、めまい、動悸、失神などがあらわれた場合には、重篤な不整脈が発生している可能性があるので、直ちに投与を中止し、心電図検査を含む適切な処置を行うこと」と明記し、【使用上の注意】欄では、「重要な基本的注意」として「すでに起こっている喘息発作を速やかに軽減する薬剤でないことを患者に十分説明すること」など患者への説明の重要性と説明の内容を具体的に記載するようになった。患者用説明書もこれに沿った改善がなされた。

6 今後の課題

  • 患者への情報伝達
    92年の死亡事例は患者に必要な情報が伝わっていれば自己の判断で投薬を中止していただろうと言えるケースだっただけに、ア社としても患者への説明の重要性を認めざるを得なかった。今後は、重要な情報が分かりやすい形で、確実に患者に届き、患者が的確な自己決定ができるようにするべきだが、それは同時に自己責任の拡大という面を持っているので、旧来の医師が決定し患者がこれに絶対服従するという上下関係(意識)を対等関係に変えることが課題となる。
    2001年、厚生労働省は、私たちの提案を受け入れてか、「医薬品情報提供のあり方に関する懇談会」を設け、医療関係者・患者に対する医薬品情報の提供のあり方について意見を求めることにした。その経過と内容については別項に譲る。

7 その後の経過

  1. (1) 再評価による承認取消
    この点については、すでに米国でフェキソフェナジンが代替薬として登場していたという事情があったことから、厚生省とア社は日本でもフェキソフェナジンを新薬として承認したときにトリルダンを事実上市場から消して行くだろうと予測していた。予想どおり、2000年9月にフェキソフェナジン(商品名アレグラ)が承認されるのと入れ替わるように、トリルダンは、2001年1月に承認整理(企業による承認取り下げ)がなされた。
  2. (2) 販売中止
    2001年3月31日、経過措置期間終了に伴い販売が中止された。