調査・検討対象

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MPS(multipurpose solution)

1 MPS(multipurpose solution:多目的用剤)とは

  1. (1) 効能・効果等
    1剤で洗浄、消毒、すすぎ、保存を行うことを目的としたソフトコンタクトレンズ(SCL)ケア用品(医薬部外品)である。日本では1996年から販売されている。
  2. (2) 成分
    レンズを消毒するための消毒剤や、これを補助する消毒助剤、レンズを洗浄するための界面活性剤やタンパク除去剤、pHを中性に保つ緩衝剤や浸透圧を調整する等張化剤などが基本成分として配合されており、最近のものでは、快適性を上げるための潤い成分なども配合されている。
    消毒剤として、オプティ・フリー、オプティ・フリー プラスに代表される日本アルコン社製品は塩化ポリドロニウムを用いているが、他のほとんどのMPSでは塩酸ポリヘキサニドを使用している。

2 取り上げた経緯

近年、アカントアメーバ角膜炎が急増しており、その90%がコンタクトレンズ装用者で、中でも多いのは、2週間頻回交換ソフトコンタクトレンズとソフトコンタクトレンズ消毒剤MPSを使用している者であるといわれている。
アカントアメーバ角膜炎とは、淡水、海水、土壌などに生息する原生動物アカントアメーバが、角膜障害部位から侵入増殖して発症するものである。診断・治療が難しく、病状が進むと視力低下をきたし、失明に至ることもあるという重篤かつ難治性の疾患である。 眼科医の間では、ここ数年、アカントアメーバ角膜炎が急増しているとの報告が多数なされているが、その実態や原因は明らかではない。
そこで、実態調査・原因究明を行うとともに、アカントアメーバ角膜炎の発症を防止するための対策を講ずる必要があると思われたため、本会議で取り上げることとなった。

3 何が問題か

  1. (1) 適正使用情報の周知不徹底
    MPSは、薬液に保存中のコンタクトレンズを、中和操作を要することなく装着することができる設計となっているため、安全性確保の目的で消毒成分の濃度が低くなっている。中でも特に、アカントアメーバに対する消毒効果については、現在販売されているMPSは無効であるとの指摘が多く、擦り洗いによってコンタクトレンズ表面から物理的に微生物を除去するなど、MPSについて定められた使用方法を遵守する必要がある。MPS製品の添付文書等には、その必要性についてある程度の記載がなされているが、それにもかかわらず、患者の中にはこれを守っていない者が存在するとの報告があり、用法遵守の重要性が十分に認識されていない可能性がある。
    そこで、アカントアメーバ角膜炎発症の危険性等について警告を一層強化するとともに、適正使用情報の徹底を図る必要がある。
  2. (2) アカントアメーバ角膜炎発症の実態調査・原因究明の必要性
    MPS製剤の製造(輸入)承認申請に際しては、アメーバに対する消毒効果試験の資料添付が求められてはいるものの、評価の基準や方法は統一されていない。そして、現在販売されているMPSについては、アカントアメーバには無効であるという見解が多いものの、効果があるという報告も存在する。
    そこで、現在販売されているMPS製品のアカントアメーバに対する消毒効果を調査して、近時、アカントアメーバ角膜炎が急増しており、MPS使用者がその多数を占めるとされている原因を究明すべきである。
    さらに、MPS使用者において、擦り洗い等の使用方法が遵守されているかなど、使用実態の調査を行い、感染経路における問題点も洗い出す必要がある。
  3. (3) アメーバに対する消毒効果試験の資料に関し準拠すべき試験法が定められていないこと
    MPSのアカントアメーバに対する消毒効果が十分でなく、そのことがアカントアメーバ角膜炎発症の主たる原因となっている可能性があり、また、製品によって消毒効果にバラツキがある可能性もある。
    これらのことが、前項の調査によって裏付けられた場合は、あらゆるMPS製品において一定の消毒効果を確保するため、製造(輸入)承認申請の際に必要とされるアメーバに対する消毒効果試験の資料について、準拠すべき試験法を定め、評価基準・方法を統一する必要がある。
    そして、消毒効果の評価基準を定めるにあたっては、前項の調査結果をふまえ、現在の使用実態においても十分な消毒効果が得られるように設定すべきである。

4 行動指針

厚生労働省、消費者庁、及び消費者委員会に対して、以下のとおり求める。

  1. ① MPS使用者に対し、アカントアメーバ角膜炎発症の危険性等について、直ちに警告を行うこと。
  2. ② 厚生労働省内に調査委員会を設置して、MPS使用者におけるアカントアメーバ角膜炎発症の実態調査・原因究明を行い、その結果を公表すること。
  3. ③ MPSの製造(輸入)承認申請の際に必要とされるアメーバに対する消毒効果試験の資料について、準拠すべき試験法を定めること。

5 具体的行動と結果

2009年12月16日、厚生労働大臣、消費者庁長官及び消費者委員会委員長に対し、要望書を提出した。
要望書提出と同じ日に、国民生活センターによる調査結果(※)が公表され、これを受けて、厚生労働省は、①厚生労働省ホームページへの警告文掲載、②安全性情報発出、及び③日本コンタクトレンズ協会への通知、の対応を行っている。
また、2010年4月に研究班を設置し、今後3年の計画で実態調査を行ったうえ、ソフトコンタクトレンズ及びMPSの取り扱い方法や、消毒効果に関する試験方法等を検討するとのことである。
※ 国民生活センター調査報告書 http://www.kokusen.go.jp/pdf/n-20091216_1.pdf

6 今後の課題

厚生労働省及び研究班における検討・対応状況の把握につとめ、要望事項の実現を目指す。