COVID-19;アスピリンは入院患者の生存率を改善しない、臨床試験の報告
2022-01-26
キーワード: COVID-19、大規模ランダム化比較試験、アスピリン、死亡率
英国RECOVERY試験で、アスピリンが COVID-19 入院患者の死亡を減らす効果を確認するための大規模ランダム化比較試験が行われ(※1)、その結果アスピリンは生存率を改善しなかったと、BMJ 2021 年 6 月 8 日電子版(※2)が報じた。以下に要約を紹介する。
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アスピリンは、COVID19に罹患した入院患者の生存率を改善しないと、英国のRECOVERY試験が報告している。
RECOVERY 試験は 2020 年 11 月から 2021 年 3 月の期間に、約15,000 人の患者を対象としてアスピリン 1 日 1 回 150mgを投与した患者7351人とランダムに割り付けされた 7541 人の通常ケア患者と比較した。
プレスリリースを通じて発表された結果は、アスピリン治療は死亡率を減らすという証拠を示さなかったというものだ。アスピリンに割り付けられた患者はわずかに入院期間が短く(中央値8日対9日)、28日以内の生存退院割合は高かった(75%対74%;率比1.06,95%CI 1.02-1.10;p=0.0062)が、主要エンドポイントである 28 日後の死亡率に有意差がなかった(17%対17%;率比0.96,95%CI 0.89-1.04;p=0.35)。人工呼吸器装着または死亡に進行する割合にも差は認められなかった(21%対22%;リスク比0.96;95%CI 0.90-1.03;p=0.23)。これらの結果はすべてのサブグループで一貫していた。アスピリン治療患者では通常ケアに比べ、大出血イベントが0.6%多く、血栓塞栓(凝固)イベントは0.6%少なかったと、研究チームは報告した。
COVID-19 の重症患者では血液凝固が肺機能を劣化させ死亡をもたらすことが示唆されており、他の疾患で血液凝固のリスクを減じる目的で広く用いられている、安価なアスピリンの効果が期待されていたが残念だ。今回の結果はどの治療剤が有効か有効でないかを確立していくために、大規模なランダム化比較臨床試験がとても重要であることを示している、とRECOVERY試験の共同主任研究者マーティン・ランドレイは語った。
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RECOVERYはCOVID-19が疑われるか、または確認された入院患者に、有益である可能性のある治療法を特定することを目的として設計された国際的な臨床試験である。2021年11月10日時点で4万人を超える患者が参加している。
パンデミック下で、有効な治療法が確立されていないなかで様々な可能性のありそうな治療が試みられ、比較対照のない試行的治療の論文・短報が学会報告、医学雑誌を埋め尽くしたことは記憶に新しい。RECOVERYはプラットフォーム試験(※3)と呼ばれる臨床試験方法で、多数の候補治療から有効な治療法を効率的に見つけるため、共通のプロトコルに基づき実施される、非遮蔽のランダム化比較試験である。アスピリンの他、これまでにアジスロマイシン、コルヒチン、デキサメタゾン、など9つの治療法についての比較試験結果が公表されている。安全性有効性の評価が十分とはいえない薬剤の「観察研究」という名目の未承認治療や、拙速な特例承認はそろそろ終わりにしたいものだ。(N)
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参考文献
(※3) 平川晃弘ら.マスタープロトコルに基づくがん臨床試験.計量
生物学 Vol. 39, No. 2, 85–101 (2018)