注目情報

  1. ホーム
  2. 注目情報

著名医学ジャーナル臨床論文が抗がん剤の有害事象を正しく伝えず省略している

2021-06-01

(キーワード):抗がん剤の有害事象、抗がん剤臨床試験論文、副作用表現、結果の透明性、スピン

 プレスクリール・インターナショナル誌 2021年1月号が「腫瘍学臨床試験の有害事象と結果: 誤りを導く言語表現と結果の省略」の記事(※1)を掲載している。このもととなっている臨床論文は BMJ onlineに2018年10月に掲載された名古屋大学医学部付属病院B.Gyawali らの論文「抗がん剤の臨床試験における有害事象(害)の報告をもっとわかりやすく」(※2)である。インパクトファクターの高いNew England Journal Medicine, Lancet. Lancet Oncology, JAMA, Journal of Clinical Oncologyの5誌に2016年に掲載された抗がん剤の第2,3相ランダム化臨床試験(122論文)を調べた結果である。以下に概要を紹介する。
                                        
−−−−−−−−−−−−−−

 抗がん剤の有害事象は臨床試験の結果を報告する論文ではしばしば軽視されている。 臨床試験中に発生した有害事象は、論文では省略されているか、主観的な用語を使用して説明されていることがよくある。 名古屋大学付属病院・愛知県がんセンターの腫瘍学グループは、抗がん剤の臨床試験の結果を示す論文で深刻な有害事象が報告される方法を分析した。著者らは、腫瘍学の上位5誌に掲載された論文を調べ、耐容できる(tolerable)、 受け入れられる (acceptable)、管理できる (manageable)など、抗がん剤の副作用に関する過度に一般的または主観的な表現を探した。この性質の用語は、特定された論文の43%、特に要約、結論、およびディスカッションのセクションで見つかった。これらの用語の主な目的は、問題の薬物の有害事象から注意をそらすか、軽視することであるように思われる。 薬の有害事象を軽視した用語を含む53の論文のうち、14は重篤な有害事象に関するデータがなく、22は生命を脅かす有害事象に関するデータがなく、2は死亡に関するデータがなかった。有害事象の発生率に関するデータを含む論文では、ほとんどの薬が「好ましい」または「許容できる」副作用プロファイルを持っていると説明されていたが、プラセボまたは標準治療を受けた患者と比較して、治験薬を投与された患者は重篤な有害事象(39件中30件)、生命を脅かす有害事象(31件中26件)および致命的有害事象(51件中34件)の発生率が高かった。 医学ジャーナルでの臨床試験結果の説明はしばしば偏っており、評価中の治療の悪影響を軽視している。要約と結論を読むだけでは、治療の害を過小評価するリスクはさらに大きくなる。

−−−−−−−−−−−−−−
                                        
 B.Gyawali らの論文で具体例として取り上げられている、リポソームイリノテカンの膵がん臨床試験論文では、結論のパラグラフで「管理できほとんどが可逆的な毒性」と述べている。しかし実際は対照群では死亡例がないのに介入群は5例が死亡している。リポソームイリノテカンはリポソームのナノ粒子にイリノテカンを封入することで、血漿中循環時間を延長させ、血管透過性及び滞留性亢進に伴う腫瘍への集積を増加させ、抗がん作用を増強させた薬剤である。イリノテカンはもともと強い骨髄抑制や重度の下痢などの毒性が問題になった薬剤であり、「管理できほとんどが可逆的な毒性」という表現は「過度に一般的または主観的な表現」であることは間違いない。

 著者らは、このような論文を掲載している著名医学ジャーナルの責任も大きいとしつつ、具体的な改善策を提示している。ひとつは患者に治療の受容性 (acceptability) について尋ねることである。いまひとつはQOL (quality of life)の報告である。抗がん剤にとってQOL の情報は害の間接的な指標であり、同時に臨床的ベネフィットの重要な計測 (measure) でもある。

 また、著者らはキーメッセージとして以下の4点を挙げている。

1) 抗がん剤臨床試験の多くの報告が、とりわけ抄録と結論において有害事象(害)についての記載に主観的な用語を用いている。 

2) あいまいで主観的な用語は有害事象(害)の認知を弱め、治療決定に影響を与える。

3) すべての抗がん剤臨床試験は有害事象を完全に報告し、主観的な用語を避けるべきだ。

4) QOLの評価と患者に治療の受容性を尋ねることは治療を良いものとすることに役立つ。

患者を医薬品評価に参加させる必要性については、重要な指摘だと考える。
(G.M)