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新型コロナワクチン開発のために健康なボランティアを新型コロナウイルスに感染させる 「ヒトチャレンジ試験」は許されるか?

2021-03-03

(キーワード):ヒトチャレンジ試験、新型コロナウイルスワクチン、COVID-19, SARS-CoV-2、倫理委員会

 英国政府はワクチンや治療薬の開発などを後押しする目的で、健康なボランティアを人為的に新型コロナウイルスに感染させ「ヒトチャレンジ試験」を実施しようとしている。2021年2月17日、英国政府は倫理委員会が試験の実施を承認したことを明らかにした。BMJ誌は賛否両方の意見を並列して掲載している。※1

 以下に概要を紹介する。

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 新型コロナウイルスワクチン開発が緊急に必要とされるなか、何千人もの健康な人々が、候補ワクチンのテストのためにウイルスに感染することを志願するようになった。

 新型コロナウイルス感染症「ヒトチャレンジ試験」の可能性を提唱する非営利団体「1DaySooner」のボランティア主催者であるSean ONeill McPartlin氏らは、上記のようなボランティアの利他主義を受け入れるように促している。これに対して、生命倫理学者であり、新型コロナウイルス感染症「ヒトチャレンジ試験」に関するガイダンスのためのWHOワーキンググループメンバーでもあるCharles Weijer氏は、それは危険で正当化されないと主張している。

【認めるべきとする見解−Sean ONeill McPartlinら】

(1) ヒトチャレンジ試験の価値

 これらの試験がなぜ価値があるかについては、2つの主要な議論がある。

 第一に、ヒトチャレンジ試験が市場に出回る最初のワクチンの開発を加速する可能性は低いが、第2世代および第3世代のワクチンにとって不可欠であるかもしれない。300を超える候補ワクチンがあるが、それらすべてに対して従来の大規模な第III相試験を実施することはできない。ヒトチャレンジ試験では、最適な候補ワクチンに優先順位を付けることができる。モノクローナル抗体などの治療法の予防的使用をテストするための唯一の効率的な方法でもある。

 第二に、ヒトチャレンジ試験は、新型コロナウイルス感染症の免疫に関する本質的な疑問に答えるのに役立ち、ワクチンや治療への幅広い応用が可能であり、このような知識の有益性を考慮しなければならない。

(2) 正当なリスク

 救命療法の利用可能性は、新型コロナウイルス感染症の「ヒトチャレンジ試験」の倫理的な前提条件ではない。若い健康なボランティアにおける本試験のリスクは、おそらく2万人に1人以下である。我々は、多くの場合個人防護具も所持していない一般社会人、特に医療従事者が新型コロナウイルス感染症の危険にさらされることを許している。また、肝ドナーに肝臓提供による600人にひとりの死亡リスクを許している。ボランティアは、チャレンジ試験の参加者が直面している様々なリスクを認識したうえで、健全な精神的・身体的健康をもたらす厳格な基準にゆだねることになる。

【認めるべきでないとする見解−Charles Weijer】

(1) 倫理的要件を満たしていない

 現在のところ、健康なボランティアに野生型新型コロナウイルスを感染させることは、科学的・社会的価値、妥当な利益とリスク、参加者の公正な選択といった倫理的要件を満たしていない。ヒトチャレンジ試験を行わなくても、1つ以上のワクチンが手に入る可能性があり、ヒトチャレンジ試験を実施するためには、従来の方法では研究の科学的目的を達成できないことを証明しなければならない。

(2) 不確実性が多すぎる

 過去50 年間に何千人ものボランティアがヒトチャレンジ試験に参加してきたが、死亡した者は一人もいない。これは、科学者たちがヒトチャレンジ試験の対象を限定することでボランティアをしっかりと保護してきたからである。試験の対象は、自然に治癒し、長期的な有害作用をもたない疾患か、治療法がある又は、十分に解明されている疾患に限定されてきた。「ヒトチャレンジ試験」の参加者に対するリスクは不確実であり、許容するには大きすぎる。新型コロナウイルス感染の症状は多様で重篤であり、肺以外でも、ウイルスが脳や心血管系に感染し、脳卒中 や心筋炎を引き起こすことがある。そしてこれらの後遺症はいずれも、若者で観察されており、身体障害を引き起こすことがある。

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 確かに、ヒトでのチャレンジ試験が実現すれば、新型コロナウイルスワクチンや治療薬の開発で、通常の臨床試験より大幅に少ない症例数で、短期間で有効性データを取得できる。しかし、新型コロナウイルス感染症にはまだわかっていない要素が多すぎ、ヒトチャレンジ試験の参加者に対するリスクは不確実である。ヒトチャレンジ試験を実施するかどうかについては十分な情報公開のもとで幅広い協議が必要であり、時間をかけて議論すべきである。G.M