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過去7年間にドイツで販売された新薬の半数以上が従来の医薬品を上回る付加価値を示せていない

2019-09-26

キーワード(新薬 医薬品の開発と承認 医療の質・効率研究所(IQWiG) ドイツ公立医療技術評価機関(HTA)新薬がもたらす価値 患者のニーズ)

 ドイツの公立医療技術評価機関(HTA)であるIQWiG(医療の質・効率研究所)が、新薬について厳格な評価を行っていることは、これまで注目情報でも紹介してきた(※1)。今回はIQWiGの医薬品評価部門長である Beate Wieseler らが、欧州医薬品庁EMAが承認しドイツで販売された新薬が、従来の医薬品に対して付加価値を示せたかどうか検討した結果をまとめ「新薬;私たちはどこで間違え、どうすれば改善できるのか?」と題してBMJ電子版に発表した(2019年7月10日)。

 要約を紹介する。
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 新薬は、従来の医薬品による標準治療に比べて付加価値を示せなければならない。そのことは患者が何もしないことも含めた治療法の決定だけでなく価格設定にも大きな影響を与える。
2011年から2017年までに承認されドイツ市場に導入された152の新薬(これらのほとんどは欧州全域の欧州医薬品庁EMAによって承認されたもの)のうち、相当ないし大きな付加価値を示せたのは54(25%)に過ぎなかった。35(16%)は付加価値が小さいかまたは定量できなかった。125(58%)は承認された患者集団において、それまでの標準治療と比べて、死亡率、罹患率、QOLの改善について付加価値は証明できなかった。

 市販後にエビデンスが証明されればいいという人がいるがそれは幻想で、現実は全く違う。例えば、ドイツで2011年から2017年までに市販後の再評価が要求された6つの医薬品の臨床試験はいずれも実施されなかった。世界的にみても、各国の医薬品規制当局は、市販後に求められている検証をしなかった製薬企業に制裁を課していない。

 また、ある新薬が商業的に成功した場合、その後、似たような薬(Me-too drugs)ばかりが続けて発売されるという問題もあり、医学の発展を妨げているという批判がされている。例えば、ドイツで成功したとされた48の抗がん剤のうち、12(25%)がPD−1またはPD−L1阻害剤という同じ作用機序の薬であった。

 最近の新薬開発をめぐる状況は規制の失敗を示していて行政は新薬開発プログラムの短縮には慎重でなければならない。また、新薬の承認は、有効性と安全性を証明するために長期かつ十分な大規模ランダム化比較試験が要求されるべきである。長期的には、製薬企業がどんな薬を開発するか受動的に待つのではなく、規制当局がより積極的なアプローチをしていく必要がある。EUと加盟国が力を合わせ、患者のニーズにより焦点をあてた新薬が開発されるよう法的枠組みを変えることが求められている。
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 今回の論文が示す改善提案とは、まさに医薬品規制の原点であるはずの「患者に真の利益をもたらす新薬開発」の必要性である。日本でも、条件付き早期承認制度や先駆け審査指定制度の法制化が進められるなど、規制当局がますます新薬の迅速承認に「前のめり」になっている感が否めない。仮に迅速承認を認めるのであれば、期待された有用性がないと判断された薬はすみやかに承認取り消しになるような運用が絶対的に求められる。 (TC)