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リアルワールドデータを活用した効率的なランダム化比較臨床試験を(ランセット誌論説)

2019-05-20

(キーワード:  リアルワールドデータ、観察研究、介入研究、ランダム化比較臨床試験 、医薬品承認)
 
 臨床試験を行って有効性安全性を調べる研究を介入研究、臨床試験を行わず観察データを用いる研究を観察研究という。医薬品は比較群をおいた介入研究(ランダム化比較臨床試験: RCT)を行い、有効性安全性を証明(検証)して承認するのが、ゴールデンスタンダードである。

 一方、最近の情報通信技術 (ICT) の発達がいちじるしく、リアルワールドデータと呼ばれる実地診療情報データが得られやすくなっている。介入研究(ランダム化比較臨床試験)は多大の時間と費用がかかるので、リアルワールドデータを用いる観察研究データをランダム化比較試験に替えて、有効性安全性の証拠(エビデンス)として医薬品の承認に用いられないかに関心がもたれている。

 有力医学雑誌「ランセット」誌が、2019年1月29日号の論説でこの問題をテーマとしている。著者は Gerstein HC (カナダ・マックマスター大学)、McMurray J (英国・グラスゴゥ大学)、Holman RR (英国・オックスフォード大学)の各氏である。要旨を紹介する。
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 われわれはリアルワールドに住んでいる。したがってリアルワールドから得られたデータが有効な治療を決めるのに役立つことを期待すること自体はもっともである。しかし、巧みな方法を用いても「ランダム化」がなければ交絡 (欄外注1参照)を防ぐことはできない。

 観察研究では、交絡因子の多くは測定されていないか、知られていないので補正ができない。大規模なランダム化比較臨床試験を行えば、ランダム化の過程が効果的に既知・未知のあらゆる交絡のバランスをとってくれ、交絡の問題は巧みに除去される。背景因子が同じになり比較される群の違いは、割り付けた介入によるものとなる。

 ランダム化比較臨床試験を必要としないような明確な因果関係(相対リスク4以上又は0.25以下)はまれにしかなく、通常のリアルワールドデータの解析で多く報告される相対リスクが0.5から2の間で変動する場合は、明らかになっていない交絡を避けるためにランダム化比較臨床試験が必要である。

 リアルワールド設定のもとでランダム化比較臨床試験を行えば、より少ない労力で、安価に、そして結果を実地臨床に生かせる形で行うことができる。この「リアルワールド・ランダム化比較臨床試験」(real-world RCTs)は少ない費用で、長期間にわたるフォローアップが可能である。例えば英国で実施中の研究ではレジストリを通じ認定された糖尿病患者がランダムに割り付けられ、7年以上にわたって普通郵便でフォローされた。

 この「リアルワールド・ランダム化比較臨床試験」の革新的なアプローチは、リアルワールドデータのもつパワーを役立たせ、そしてここが重要なことだが、介入の真の効果を評価するのに必要な「ランダム化」を保持した試験デザインである。より多くの「リアルワールド・ランダム化比較臨床試験」がなされることで、それらは伝統的なランダム化比較臨床試験を補い、またそれらの一部に代替するだろう。「ランダム化」なしには得られたものは仮説でしかない。
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 著者たちは「ランダム化」がなければ、交絡が除去できず、有効性を証明できないことを強調している。そして同時に、われわれはリアルワールドに住んでいるので、リアルワールドデータの利活用をはかることが大切としている。そして、ランダム化比較臨床試験とリアルワールドデータによる観察研究を対立したものでなく補い合うものとしてとらえ、「リアルワールド・ランダム化比較臨床試験」(real-world RCTs)の効率的な推進を薦めている。

 「リアルワールド・ランダム化比較試験」の実例として著者たちが引用しているのは、英国で実施中のASCEND研究である。この研究の目的は、動脈疾患をもたない糖尿病患者において、アスピリン1日100mg服用が心循環病とガンを1次予防するか、併せてオメガ3脂肪酸1日1gのサプリメント摂取が心循環病を予防するかを調べることである。リアルワールドデータとして英国の疾患レジストリが用いられている。患者リクルートは疾患レジストリの患者を対象に主に普通郵便で行い、2か月の助走期間のあと、書面で承諾が確認された患者を、プラセボを用いる2X2要因デザインでランダムに「アスピリン+オメガ3脂肪酸、アスピリン、オメガ3脂肪酸、プラセボ」の4群に割り付けた。治療開始後のデータ収集は郵便を基礎にしたアプローチで行い、セントラルレジストリデータで補う方法によった。

 ここではデータ収集は郵便を基礎にしたアプローチを主にしてセントラルレジストリデータで補う方法によっているが、さらにテータ収集をレジストリデータのみで行う「レジストリを基盤にしたランダム化比較臨床試験」(Registry-based RCT, Randomized clinical registry trial, TASTE研究, CHAP研究など) も注目されている。極めて安価に少ない労力で実施できるが、研究の成否はもとになるレジストリデータの品質への依存性が強い。

 科学として求められる「ランダム化」の要件を満たし、同時にリアルワールドデータ活用の両立を目指した研究の行方が注目される。
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注1 交絡 真の関連が第三の要因によってゆがめられてしまう現象。この第三の要因を交絡要因という。例えば、喫煙と肺がんの関連性を調べようとする場合、調べようとする要因(喫煙)以外の要因、例えば飲酒などががんの発生率に影響を与えている可能性がある。この時、飲酒が交絡要因に相当し、飲酒が調査に影響を与えないようにデータを補正する必要がある。    (T)

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