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追放されたコクランのディレクターが「科学における本来の姿」を目指す新たな研究所を設立

2019-05-20

キーワード:コクラン Scientific Freedom ノルディック・コクラン・センター

 より良い医療のために必要なエビデンスを作りだすことを目的として形成された共同体コクランが、2013年、現CEOマーク・ウィルソンが就任し、CEOを中心とする執行部体制に組織変革して商業主義的要素を取り入れて以降、コクランレビューの信頼性が揺らぐ事態を招いた。この現状に異議を唱え執行部と対立してきた人物が、ノルディック・コクラン・センター長であったピーター・ゲッチェ氏である。

 注目情報「コクラン−利益相反問題に揺れる組織は沈みゆく船か」(2018.11.5)にて、岐路に立つコクランの現状を解説し、ゲッチェ氏の主張とそれを指示する国際医薬品情報誌協会(ISDB)の声明を紹介した(※1)。

 コクランのメンバーシップをはく奪されたピーター・ゲッチェ氏が本来の科学のあり方を掲げて新たな研究所の設立を発表したBMJニュース2019年1月11日(※2)を紹介する。
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 2018年秋にコクラン共同計画の理事を解任されたピーター・ゲッチェ氏は、新たな“科学の自由のための研究所”を設立することを計画している。この新たな組織は、「科学における誠実さ (honesty) と本来の姿(integrity) を保つ」ことを目標としている。

 ゲッチェ氏は、BMJ誌に対し以下のように説明した。研究所に必要な資金はクラウドファンディング (インターネット上に企画を公開して賛同者から資金を募る) で集める。研究所は本来の研究に加え、医療の質的向上のためのロビー活動が中心になる。この研究所の計画は、米国の精神科医ピーター・ブレジンから提案され、英国の疫学者トム・ジェファーソンも関わっているとし、コクランに対抗するような野心は持っていないと述べた。

 研究所の設立理念は、1)すべての科学は金銭的利害関係から自由であるよう努めること、2)すべての科学的成果は速やかに公表され、無料でアクセスできること、3)研究プロトコールを含め、すべての科学データは無料でアクセスできることの3つである。

 ゲッチェ氏の雇用者でありノルディック・コクラン・センターを主幹するリグス病院は、ゲッチェ氏を解雇すると彼に伝えた。現在、ゲッチェ氏の弁護士がこの決定を争っている。
ゲッチェ氏は、新しい研究所を如何に組織するかについては、彼が解雇されるか否かにかかっているので、まだ決めていない。しかし大きな期待を持っていると語っている。

 ゲッチェ氏は現在、彼の訴訟費用のためにクラウドファンディングを募っており、 2018年12月19日に開設されたGoFundMeのページでは、余剰分は研究所の費用に使うとし、これまでのところ応募は115,914クローネ(£14,020;€15,530; $17,900)(約1,943,000円)まで上昇している。目標は10,000,000クローネである。
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 ピーター・ゲッチェ氏は、2019年3月9日、コペンハーゲンにてシンポジウムを開催した。“Institute for Scientific Freedom”「科学の自由のための研究所」を設立し、同時に基金への協力を呼び掛けた(※3)。基金の呼びかけでは、ゲッチェ氏の解雇を許すことは、世界中の医師と科学者を脅かすことになり、本物の科学研究と医療を後退させることになると訴えている。ゲッチェ氏以外に、7名のゲストスピーカーが発言し、最後にゲッチェ氏は、「whistleblowerの死:科学の“検閲”が進んでいる」というテーマでスピーチを行った。シンポジウムはユーチューブにて公開されている(※4)。