FDAは観察研究の利用に消極的−透明性の課題「マリガン」
2019-04-25
キーワード;リアルワールドエビデンス,後ろ向き観察研究,“マリガン”、事前登録
米国FDAは2018年12月6日、「リアルワールドエビデンスプログラムのためのフレームワーク(以下「フレームワーク」という。)」を公刊した(※1)。「21世紀の治療」法(21st Century Cures Act)」に基づき、リアルワールドエビデンスがどのように既承認薬の効能追加の承認を裏付け、また承認後調査の要求を満たせるのかを探るためのものだ。現在FDAは、主に腫瘍や稀な疾患に対して、対照群を置いた介入試験の実施が非倫理的または実現不可能であり、予備的なデータによりエフェクトサイズ(効果量)が十分に大きいと期待される場合に限って、承認申請用にリアルワールドエビデンスの提出を認めている。しかしこのフレームワークでは、後ろ向き観察研究のデータの特性や研究デザインと解析、統計的考察に関連して、FDAはこれまで繰り返し提起してきたいくつかの重大な疑問(※2)に焦点を当てて論じており、効能追加への観察研究の利用に慎重なアプローチをとっている。FDAがもっと肯定的な見解を示してくれるものと期待していた製薬企業は失望するだろうとピンクシート2018年12月6日号は報じている。その中でも、一番の問題である透明性の課題「マリガン」に関する部分を紹介する。
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透明性が確保できなければ、リアルワールドデータを使った後ろ向き研究でのデータ分析を、望む結果が得られるまで、安易に何回も行うことが可能になる−FDAの指摘スポンサーは望んだ結果が出せるまで、ほんの少しだけ変数を変えて観察研究を繰り返し続けるであろうという懸念があるとフレームワークでは論じている。
薬剤評価と研究センターの臨床科学副所長のRobert Temple氏は、そのような繰り返しの分析のことを、「mulliganマリガン」と表現した(「マリガン」とはゴルフ用語で、ティーショットを失敗したときに打ち直すことを認める仲間内のルールを言う)。10月1日に開催されたリアルワールドエビデンスに関する会議の中でのことだ。
FDAは専門家や他の利害関係者からの推奨も含めて、そのようなことが実行されないような政策を検討している。透明性確保のため、研究開始前にはプロトコールを、そして完了したら最終報告をFDAに提出するべきだとフレームワークは強調する。今後FDAはリアルワールドデータに用いる観察研究デザインについてのガイダンスの発行を予定している(※3)。
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日本では患者数が少ない等の理由で検証的臨床試験の実施が困難な医薬品などについて、検証的臨床試験を経ないで承認し、承認後に有効性・安全性の再確認のための調査の実施を条件とする「条件付き早期承認制度」を世界に先駆けて法制化しようとしている。承認後の調査にリアルワールドエビデンスの活用を盛り込んだものだ。当会議の意見書(※4)の中でも指摘したとおり、リアルワールドデータの質の問題、内在する根本的な問題をそのままにしたままあいまいな要件で運用することは、不当な適応拡大と薬害の再発を招くことになりかねない。
観察研究データ利用での透明性を高めるため(事後に多くのデータにいろいろな解析を試みて都合の良い結果のみ出すなどを防ぐため)、観察研究についても、介入研究で行われているClinical Trials. Gov.のような実験デザインや解析方法について、事前登録を義務付けるしくみは最低限必要であろう。そのうえで、性急に導入を進めるべきではなく、有効性を裏付ける証拠としてリアルワールドエビデンスが役割を果たしうるのか、FDAがあげている重大な疑問をしっかりと検討・研究する必要があるだろう。(N)