オーファンドラッグ法は承認システムにネガティブな影響をもたらし、高薬価の根源ともなっており見直されねばならない
2019-04-25
(キーワード:オーファンドラック法(ODA)、医薬品迅速承認、希少疾患、早期承認制度)
オーファンドラッグ(Orphan Drug)とは希少疾病用医薬品のことで、対象患者数が少ないため開発コストが回収できないことが多く、製薬会社では積極的に開発されてこなかった。このため、見捨てられた孤児(Orphan)のような薬という意味でOrphan Drugと呼ばれている。しかし、患者数にかかわらず、病気の治療におけるくすりの重要性に変わりはなく、1970〜1980年代にかけて、先進諸国を中心にオーファンドラッグの研究開発に対する公的援助制度をつくる動きがみられるようになり、アメリカでは1983年にオーファンドラッグ法が制定された。
オーファンドラッグの開発促進というポジティブな結果をもたらしたように見える同法について、ネガティブな分析をしているアーサー・カプラン氏 (ニューヨーク大学ランゴン医学センター医学倫理)たちによる論説(※1)の要旨を以下に紹介する。
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オーファンドラッグ法は製薬企業が限られた患者の医薬品開発を行わない中で、患者が20万人未満の疾患を対象に、企業に税制面のインセンティブ、研究援助金、特許保護期間の延長を付与し、開発を促進するよう1983年に制定された。2018年4月時点で合計503のオーファンドラッグが適用を受けている。
ODAが製薬会社にまれな疾患の研究と治療の実施を促すことに成功した一方で、ODAの成功が製薬市場全体と米国の医薬品承認システムの健全性に悪影響を及ぼす可能性があることが懸念されている。 この法律は製薬会社にとって非常に魅力的であり、伝統的な薬物承認の要件は非常に煩雑であるため、製薬会社の中には過度にオーファンドラッグ開発に焦点を移しているものもある。同法に定義されているように、まれな疾患は、米国の10%未満の個人にしか影響を及ぼさない。 しかし、2015年から2016年の間に、これらの疾患に焦点を当てた治療薬は、食品医薬品局(FDA)によって承認された67の新薬のうち30製品(45%)を占めていた。
批判者たちは2つの心配を強調している。
第1に 製薬企業はオーファンドラッグ開発で伝統的な承認標準である無作為化試験(RCT)を避けようとしている。2005-2012年の期間に承認されたオーファンドラッグとそうでない医薬品を比較するとオーファンドラッグは参加者数が少なく (平均98対平均294)、RCTでない傾向にあった。
第2に、市場には一般的な競争がないため、製薬会社はオーファンドラックに対してかなりの価格を課すことができる。2017年のトップ10のオーファンドラックはそれぞれ、製造業者に10億ドル以上の売上高をもたらした。全体として、2017年のオーファンドラッグ製品の売上は、業界全体で1,250億ドルと推定されている。これは、処方薬市場全体の約16%に相当する。
精密医学および分子遺伝学の台頭は、オーファンドラッグ開発への重点が増し続けることを意味する。 分子遺伝学は、過去数十年の間にかなりの進歩を遂げ、これまでにないレベルで詳細な疾患メカニズムおよび遺伝的関連を明らかにしてきた。
50年前、がんは主にその臓器等の名称によって定義されていた。例えば、膵臓のがんは膵臓がん、肺のがんは肺がんだった。この命名法は今日も持続しているが、近時、がんは疾病過程に関与する根底にある遺伝的変異によってますます細分類されてきている。例えば、p53変異を有するがん、rb変異を有するがん、BRAF変異を有するがん、MEK変異を有するがん、およびERBB2変異を有するがんなどである。このように分子遺伝学は、これまで何百万もの人々に影響を及ぼしている単一のがん疾患と考えられていたものを、遺伝子変異ごとに細分化することによって、オーファンドラッグの適用となる20万人未満の稀ながん疾患の集まりに変えてしまった。
より多くの医薬品研究が一般的な疾患の亜集団を対象としているため、従来の承認プロセスを通過する医薬品は少なくなる。標準的な無作為化臨床試験の価値についての考え方の変化の結果としてではなく、医薬品承認システム全体が疾患の再定義によって変化するだろう。これらの製品の安全性と有効性を実証するための十分に強力な無作為化臨床試験ほとんど実施されなくなるだろう。つまり、不適切な市販前証拠に基づいて、より多くの薬が市場に出るだろう。
著者たちは、希少疾患を20万人未満の患者と定義すること自体もはや時代遅れであると指摘し、これまで大手製薬会社に無視されてきた疾患に焦点を当てることや、長期の特許独占権が失効した後にオーファンドラッグの価格規制を制定することなどを提案している。
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我が国にも同様の制度があり、条件付き早期承認制度や先駆け審査指定制度のなどの早期承認制度と同じ流れの中で、従来の医薬品開発のプロセスが変質してきている。有効性、安全性が十分確認できないままオーファンドラッグとして開発され市場に出された新薬が適応拡大により、より多くの患者数の疾患にも使用され、莫大な利益もあげている現実も見逃してはならない。(G.M)