英国がプレガバリン(商品名リリカ)とガバペンチン(商品名ガバペン)を規制薬物に指定
2019-03-18
(キーワード;薬物乱用法、薬物関連死亡、神経障害性疼痛)
英国がプレガバリン(国内商品名リリカ)とガバペンチン(国内商品名ガバペン)の乱用による死亡をなくすために、薬物乱用法(The Misuse of Drug Act)のクラスC薬物に指定することを決めたとBMJ online 2018年10月16日(※1)が伝えている。規制が実施されると、医師は電子処方箋でなく手書きでサインしなければならなくなり、薬剤師は28日分までしか調剤できない。人々がこれらを処方せんなしで所有することは違法となり、他人に渡したり売ったりすることも同じく違法である。
日本では、リリカは「神経障害性疼痛、線維筋痛症に伴う疼痛」を効能効果として2010年に国内発売され、2017年推計で年間937億円を販売する大型製品である。ガバペンは2006年に発売された「他の薬剤で効果不十分な部分てんかん発作に対する他剤との併用療法」を効能効果とする薬剤で疼痛には適応がない。
以下にBMJ記事の要約を紹介する。
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英国において、プレガバリンやガバペンチンを含む190の薬物が死亡に関連する薬物として登録されている。プレガバリン関連の死亡は2012年の4例から2016年には111例に急増し、ガバペンチン関連死亡は同じ期間で8例から59例に増加した。プレガバリンとガバペンチンの規制は2019年4月から発効する。
現在、両薬剤とも処方箋でのみ使用できる抗けいれん薬であり、てんかん、末梢性神経性疼痛、成人の全般性不安障害の治療に用いられる。神経伝達物質γアミノブチル酸(GABA)と構造的に関連していて、特にオピオイドのような薬剤との併用で気分を高揚させることができる。薬物乱用に関する諮問委員会(The Advisory Council on the Misuse of Drugs;ACMD)は2016年にプレガバリンとガバペンチンに関連した医療乱用、違法な流用、依存が起こりうるとして注意喚起した。5年間でプレガバリンの処方は3.5倍、ガバペンチンの処方は1.5倍に増加している。ACMDは2つの薬剤を薬物乱用法(The Misuse of Drugs Act)のクラスC薬物(精神安定剤や睡眠薬、筋肉増強剤など、依存や乱用につながる可能性のある薬物などが指定されている)に再分類するよう勧告し、議会はこれを受け入れて両剤の乱用や依存を防ぐための法制定に動き出す。この決定に対して、医師、薬剤師、患者の間で広範な支持が広がっている。
両剤の規制は2019年4月から発効する。
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英国での死亡例の増加をBMJは報じているが、現在入手できるリリカの添付文書(2017年2月改訂)に死亡例の記載はない。ガバペンの添付文書(2017年4月改訂)には「原因不明の突然死が報告されている」とあるものの、その頻度は「てんかん患者の推定値の範囲」としている。
日本ペインクリニック学会の神経障害性疼痛薬物療法ガイドライン第2版(2016)(※2)には、神経障害性疼痛への薬物療法の第一選択の1つとしてプレガバリン・ガバペンチンがあげられ「睡眠の質や痛みに伴う抑うつ、不安も改善することが示されており、痛みだけでなくQOLの改善効果がある」として推奨している。ペインクリニックなどにおいてガバペンが保険適応外で痛みの緩和などに広く使用されている実態もある。線維筋痛症診療ガイドライン(日本線維筋痛症学会編2013))(※3)も両剤を筋緊張亢進型の治療に用いる同じ位置づけの薬剤として推奨している。
リリカの効能効果に関連する注意には「線維筋痛症の診断は、米国リウマチ学会の分類(診断)基準等の国際的な基準に基づき慎重に実施し、確定診断された場合にのみ投与すること」とあるが、日本医療研究開発機構(AMED)が神経障害性疼痛治療薬の適応拡大を推進するためのガイドライン(GL)づくりに着手したことが報じられた(2018.11.5)。今後さらに使用拡大の動きが強まっていくことが予想される。鎮痛はあくまでも対症療法であり、改めて安易な処方や長期にわたる漫然処方は避けるよう注意喚起するべきであろう。(N)