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ACC/AHA 2017高血圧ガイドライン改訂で、高血圧の患者は、45~75歳人口の半数を超える −米国高血圧新ガイドラインの、米国と中国における有病率への影響と適格性横断研究

2019-03-18

(キーワード:ACC/AHA,高血圧ガイドライン,SPRINT)

ACC(米国心臓病学会)とAHA(米国心臓病協会)は、ACC/AHA2017高血圧ガイドライン(以下「新ガイドライン」とする)を発表した。新ガイドラインは、高血圧症の閾値を現在の140/90mmHgから130/80mmHgとし、治療推奨閾値も150/90mmHgから140/90mmHgに引き下げるものである。

変更を促した大規模臨床試験の一つであるSPRINTは,収縮期血圧に関して、標準目標値140mmHgに比べ、厳格目標値120mmHgの方が心血管イベント発生率は有意に低かったとするものである(※1)。

ガイドラインの改定により、できるだけ早期の段階で血圧の上昇を「高血圧」と診断し、血管系障害の進展と将来のイベント発生の抑制を目指すとしている。

そこで、米国テキサス大学のRohan Khera氏らは、米国と中国の国民調査データをもとに、新ガイドラインを適応した場合、高血圧の有病率や治療対象者数が現行のガイドラインに比較してどう変化するか、治療を強化することの問題点を指摘した(※2)。その要旨を紹介する。
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調査に用いたデータベースは、米国国民健康栄養調査(National Health and Nutrition Examination Survey: NHANES)2013−16年データと、中国健康と退職縦断調査(China Health and Retirement Longitudinal Study:CHARLS)2011−12年データである。比較分析のために使用したガイドラインは、中国の最近のガイドラインに類似した米国ガイドラインJNC-8(米国高血圧合同委員会第8次報告)である。

JNC-8では、140/90mmHg以上を高血圧と定義し、150/90mmHg以上を治療対象としている(糖尿病や慢性腎疾患では140/90mmHgが治療対象)。一方、新ガイドラインは、130/80mmHg以上を高血圧と定義し、140/90mmHg以上のすべてを治療対象とする。また、130~139/80〜89mmHg でも、65歳以上、動脈硬化性心疾患、慢性腎疾患、糖尿病、10年以内の冠動脈硬化症発症リスクが10%以上のいずれかに該当する人には、治療を推奨するとしている。

新ガイドラインに従った場合、米国においては、45〜75歳の7010万人が高血圧に分類され、同年代の人の63%を占めることになる。新たに治療を必要とする人は、810万人から1560万人に増加し、治療の強化が必要な人は、1100万人から2490万人となる。

中国においては、45~75歳で高血圧と診断される人は、新ガイドラインでは2億6690万人となり、同年代の人の55%を占めることとなる。新たに治療を必要とする人は7450万人から1億2980万人に増加し、治療強化が必要な人は3000万人増加する。

ガイドラインの変更の根拠のひとつとなった大規模試験SPRINTでは、冠血管系リスクの高い患者でしか改善は証明されていない。しかし、新ガイドラインを適応することにより、治療によるメリットが少ない、より低リスクの人々へ治療を拡大することとなり、公的医療への多大な影響や効率性を考慮すべきである。
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 わが国では、日本高血圧学会が、2019年に高血圧治療ガイドライン(JSH)の改定を予定しており、2018年4月に改定案が公表された。高血圧の基準と治療開始は140/90mmHgを維持するが、合併症のない75歳未満の治療目標を130/80mmHg未満に下げ、75歳以上の患者の降圧目標は、150/90mmHgから140/90mmHg未満に下げる。治療目標を引き下げることにより非薬物療法の開始を早め、心筋梗塞と脳卒中の減少を目指すとしている(※3)。米国や欧州と同様に日本における高血圧ガイドラインを改定し、高血圧の治療目標をより厳しくするならば、厳格治療の意義が証明されていない低リスクの人々へ治療を拡大することになり、過度の降圧による有害事例を増加させることにもつながる。 (N.M)