すべての臨床試験データ の公開を求めるBMJ誌のキャンペーンに広範な賛同
2013-05-07
(キーワード:BMJ誌、臨床試験結果の公開、出版バイアス、タミフル)
臨床試験登録と結果の全面公開は、試験参加者への研究者の義務であり、臨床試験の透明化をはかり、無効な試験結果が報告されない等の出版バイアスを防止し、より質の高いシステマティックレビューの実施に寄与するために重要である。
しかし、2007年のFDA再生法で臨床試験結果のサマリーを12ヶ月以内に公表することを義務化した米国では、2009年の1年間に登録された臨床試験の報告のコンプライアンスは22%にすぎないと報告されている(※1)。
日本においても、臨床試験登録は進んできているが、2010年11月9日現在、JapicCTIで登録1284件に対し、公開148件と結果の公開は試験登録に比べ極めて数が少ない(※2)。
臨床試験登録システムの構築のみでは問題の解決には繋がらず、臨床試験の資金提供者、臨床試験に参加する患者、臨床試験を審査する倫理委員会、政府の規制機関、医学関連職能団体、患者団体、医療機関などあらゆる関係者が臨床試験結果の全面公開に向けて行動する必要がある。
コクラン共同計画とともにタミフルの全臨床試験データの公開を求めている英国医師会雑誌BMJ誌は2012年10月29日に臨床試験結果全面公開キャンペーンを開始した(※3)。以下に関連する記事の要旨を紹介する。
1.すべての臨床試験は登録され、結果は公表されねばならない
BMJ電子版2013年1月9日
副題に「アカデミアと非商業的資金提供者も製薬産業界と同罪である」とある。英国オックスフォードのIain Chalmers、オーストラリア・ボンド大学 Paul Glasziou 教授、BMJの Fiona Godlee編集長の連名である。登録された臨床試験の半分の結果しか公表されていない実態がある。多くの批判的な臨床試験は商業的資金提供者によるものに集中しているが、アカデミアも例外ではない。これは試験に志願した人々を裏切っている。研究者の責任は明らかであり、ヘルシンキ宣言では、「研究者には被験者についての研究結果を公開する義務と研究結果の完全性と精度についての責任がある」と述べている。しかし、研究者たちの自律、自己規制には期待できそうにない。臨床研究倫理委員会の取り組み強化とともに、臨床試験の資金提供者は結果を公表しない研究者には資金を提供しないなどの取り組みが必要である。BMJはいまキャンペーンを展開中である。すべてのBMJ読者が請願書に署名されるよう期待している。
2.患者たちは公表が保証されない臨床試験には参加しないよう強く望まれる
BMJ電子版2013年1月8日
臨床試験結果全面公開キャンペーンの運動家は、研究者、資金提供者、医療機関への圧力を増すよう、公共請願を開始した。かれらは同時に患者たちに対し、結果を完全に公表することが保証されない臨床試験には参加しないよう呼びかけている。このイニシャテイブ(alltrials.net) は charity Sense About Science、BMJ、コクラン共同計画、James Lind Alliance(患者と臨床医の団体)、Bad Scienceの著者 Ben Goldacre、ボンド大学のEBMセンターなどにより支持されている。このキャンペーンはタミフルのデータ公開を求めるBMJなどの団体の呼びかけで開始された。
3.臨床試験参加者が欧州医薬品庁に結果を公表するよう要求
BMJ2013年1月26日号
53人の臨床試験参加者が欧州医薬品庁に公開レターを出し、結果の非公開は彼らの信頼への背信であると指摘した。かれらは欧州医薬品庁に1980年代以降に行われた臨床試験のプロトコールと成績を公表するよう求めている。臨床試験結果の完全な報告を遅らす正当な理由は全く無く、臨床試験結果の全面公開は、より多くの人々を臨床試験に参加する気にさせる。臨床試験に加わることに決める患者は、未来の患者を助けていると信じている。彼らは製薬企業は承認された医薬品のデータは公開する義務があるとしている。
4.英国のNICEが臨床試験データの完全な情報公開を求めるBMJなどのキャンペーンに参加
BMJ電子版2013年2月25日
英国のNICEが臨床試験報告の情報公開を促進するBMJなどが行うキャンペーンを支持する。
NICEは2013年2月19日、オールトライアル・キャンペーンの訴えに署名し、署名者が3万人を超えている有力な医学雑誌やチャリティの主催者に加わった。オールトライアル・キャンペーンは2013年1月にBMJ、「悪い科学」の著者Ben Goldacre、チャリティ科学についてのセンス、James Lind アライアンス、オックスフォード大学EBMセンターによってはじめられた。賛同の署名者には、王立医学協会、精神疾患再考、嚢胞性線維症ユナイト、筋ジストロフィーキャンペーン、片頭痛トラスト、パーキンソンUK、英国薬理学会、製薬企業のグラクソ・スミス・クライン(GSK)が含まれている。
5. 研究倫理審査委員会は臨床試験結果の公表を企業に実施させるパワーを発揮すべき
BMJ電子版2013年2月26日
筆者には、製薬企業に臨床試験結果を情報公開させるパワーは、医学ジャーナルよりも研究倫理審査委員会の方が強いと思われる。研究倫理審査委員会を通さないと製薬企業は臨床試験を実施できなく、研究倫理審査委員会はもっと患者のために、そのゲートキーパーとしてのパワーを用いたい。研究倫理審査委員会は製薬企業に例えば「臨床試験に資金提供する当製薬企業は、試験終了後1年以内に試験の完全な結果を公共の医学ジャーナルか、それが出来なかったときは自社のウェブサイトに掲載することを約束する」との文書に署名するよう求めるのがよい。製薬企業が同意しない場合は、研究倫理審査委員会は健康関連研究を規制する当局に知らせる義務がある。当局はX社に違反の警告を送付する。そして新たな研究をできないようにするなどが考えられる。(GM)
- 関連資料・リンク等
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- ※1 企業にとっての臨床試験と情報公開<記録>第31回 日本臨床薬理学会年会 2010年12月1〜3日 京都、臨床薬理 Jpn Clin Pharmacol Ther 42(4) July 2011
- ※2 『薬のチェックは命のチェック』インターネット速報版No160 臨床試験データの全面公開を〜英誌BMJがキャンペーン
- ※3 Compliance with mandatory reporting of clinical trial results on ClinicalTrials.gov: cross sectional study BMJ2012;344doi: http://dx.doi.org/10.1136/bmj.d7373(Published 3 January 2012) Cite this as:BMJ2012;344:d7373