注目情報

  1. ホーム
  2. 注目情報

アリセプト23mgを承認したFDAに重大な疑惑、FDAはいかにしてエビデンスをわすれたのか

2013-05-07

キーワード;特許期間延長、承認基準違反、添付文書の承認誤り、販売戦略

BMJ電子版2012年3月22日

 パブリックシチズンは、2012年9月、アリセプトの販売停止を要請したにもかかわらず、これを怠ったとして、FDAを相手に訴訟を提起した。アリセプトの問題は、以前から指摘されていた。

 アリセプトは、エーザイが開発したアルツハイマーの治療薬である。アリセプト23mgはFDAが承認し、アジア・南アメリカの16カ国が承認するか承認を検討している。日本では申請中である。BMJ電子版に、米国のヘルスポリシーと実地臨床に関心を持つ医師たちが、「どのようにFDAはエビデンスを忘れたのか:ドネペジル(アリセプトの一般名)23mgのケース」を掲載している。

 アリセプト23mgはアリセプト5、10mgの特許がきれる4か月前にFDAが承認し、特許は事実上3年間延長された。23mgという半端な数はアリセプトのジェネリック医薬品を意識したものである。アリセプトの承認書類を調べると、アリセプトは、認知はわずかながら有意に改善を示しているが、全般機能改善は有意でなかった。これがFDAの承認基準に違反しているばかりか、アリセプト23mgが「認知機能と全般機能の両評価において重要な臨床的有益性がある」、という間違った情報を太字で強調した医師向け広告を承認している。その同じ広告の太字でないところには、「全般機能の改善は有意でなかった」と書いてあるというのに。エーザイはFDAの広告文書の見落としを最大限に活用したのだ。以下はその要約である。
------------------------------------------------------------------
 アルツハイマー病の治療薬アリセプトは米国だけで年間20億ドルを売り上げる大ヒット商品だ。2010年11月で特許切れだったが、そのわずか4ケ月前に米国FDAは中等症から重症のアルツハイマーに対する新用量23mgを承認した。ジェネリックの5mgと10mgでは組み合わせようのない「新しい」23mg製剤が、あと3年特許を守ることになる。

 アリセプト23mgの販売戦略は、教育看護師チームを通じて、神経科の医師に、アルツハイマー患者の病状は安定していないから積極的な治療が必要だという考えを植えつけさせて、長期ケアに高用量を使うよう勧めることだ。

 しかし、販売者に不都合な事実がいくつかある。アルツハイマー薬の承認には、認知機能と全般機能評価の両方での優越性が必要であるが、アリセプト23mgは、このFDAの承認基準に違反していた。1400例以上の承認試験で、認知のわずかな有意差があったが全般機能では統計的有意差がなかった。さらに問題なのは吐き気、嘔吐を含む副作用だ。10mgに比べて有意な罹病率や死亡率の増加につながりかねない有害事象が明らかに増加した。

 なのに承認されたのはなぜか。FDAの部局長は、自分の見る限り、スタディで直接的には示されなかったが、全般機能に関しての効果はあるし、製薬会社がそれを示してくれると信じている。自分は承認するつもりだと述べていたのだ。

 追加の有益性のない製品をいかにして売るのだろうか。製薬会社はアリセプト23mgの直接患者に向けた大キャンペーンを開始した。広告やウェブサイトは、アルツハイマーの配偶者や親をもつ人々の愛情に強力に訴え、医師に処方を頼むようしむける。広告には、薬が認知障害の症状を改善するが全般機能は改善しないと書かれているが、なぜそれが問題かは説明されていない。また副作用がより多いと警告するが、その頻度や重大性については触れず、しばらく服用すればよくなると書かれている。

 医師向けの広告はもっとひどい。大きなフォントで、驚くべき間違ったことが書かれている。アリセプト23mg服用者は、認知と全般機能の両方の指標で重要な臨床的有用性があったとあり、小さい文字で全般機能において統計的有意な結果を示さなかったと書いてある。

 FDAの規定では、広告は事実かつ誤解させないものでなければならず、FDAが承認した添付文書の範囲でしか作成できないのだが、ぞっとするような間違った記述が広告にかかれている。添付文書の矛盾をFDAが見落とし、販売会社エーザイはFDAが見落とした重大な矛盾の部分を強調表示したのだ。われわれの通報でFDAは添付文書を吟味し、最初の承認から1年半以上たった2012年3月1日にようやくその記載が削除された。

 承認された−そして著名な米国の消費者保護グループパブリックシティズンが市場撤退すべきと要求した(※1)にも関わらず、市場にまだある−のは残念なことだ。薬についての不完全でゆがんだメッセージは憂えることだと、医者と患者に伝えるのは簡単なことだ。よい決断のために必要なエビデンスを、彼らに与えることをFDAは忘れるべきでない。
------------------------------------------------------------------
 エーザイによると、2011年度の米国でのアリセプト23mgの売り上げは5100万米ドルでジェネリック発売による10億ドルを越える売り上げ減の補填には到底なっていない。23mg製剤は日本でも開発中だが、高度アルツハイマー型認知症に対する特許が切れる2013年6月までに何等かの動きがあるのだろうか。また高用量製剤だけでなく、ドライシロップ製剤や経皮吸収製剤(パッチ)などの新剤型開発、レビー小体認知症への効能追加なども進められており、今後拡販を強めることだろう。FDAも厚労省も、承認ありきの審査ではなく、厳格な審査を望みたいものだ。(N)

------------------------------------------------------------------