フランスの医師たちは第3・第4世代経口避妊剤の処方を制限される
2013-04-02
◎この注目情報の末尾に2013年9月時点での「追記」があります。
さらに2014年1月時点での「追記」があります。
(キーワード: 第3・第4世代経口避妊剤、静脈血栓リスク、脳卒中リスク、フランス、利用制限)
経口避妊剤は健康な女性が長期に用いるものであり、その安全性は重要な要素である。
経口避妊剤は、合成エストロゲン(卵胞ホルモン)と合成プロゲステロン(黄体ホルモン)の配合剤であり、含有されている黄体ホルモンの開発・市販の時期により、第1から第4世代に分類されている。第1世代としてはノルエチステロン、第2世代としてはノボノルゲストレルを含有するものが代表的である。
第3・第4世代経口避妊剤は、それまでの第1・第2世代避妊剤でみられた体重増加やにきびなどの副作用が少ないとして開発された薬剤である。しかし、頻度は少ないとはいえ静脈血栓リスクを2倍にすることが、WHO(世界保健機関)の疫学調査で示された。
世界的には第3・第4世代経口避妊剤は広く用いられている。しかし、メディアトール薬害を契機に医薬品の副作用への関心が高まり、また薬害を出さない医薬品行政への改革がめざされているフランスでのこれらの経口避妊剤をめぐる最近の動きを、BMJ誌電子版2013年1月8日号、1月14日号が伝えているので要旨を紹介する。
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フランスは他の代替薬(第1・第2世代経口避妊薬)があるにもかかわらず、重篤なリスクをもつ薬剤が過剰使用されている状況の是正に乗り出す。直接の契機となったのは、米国やスイスなどではこれまでも提訴されていたのだが、フランスでははじめての第3世代経口避妊薬メリアンの健康被害に関する訴訟である。25歳の女性Marion Laratが、メリアンによる脳卒中で半身不随に陥ったとしてバイエル社とフランス医薬品安全庁(ANSM)を提訴した。脳卒中のリスクは第3・第4世代経口避妊剤で静脈血栓同様2倍になることが報告されており、彼女はメリアンはフランス市場から排除されるべきだとしている。
フランスでは経口避妊薬を服用する500万人の女性の半分が第3・第4世代経口避妊剤を処方されている。フランス医薬品安全庁(ANSM)は、第3・第4世代経口避妊剤は第一選択剤とするのは適当でなく、患者が第1・第2世代経口避妊剤を使用するのに問題がある場合にのみ用いるのが適当とアドバイスしてきていた。ANSMはメリアンを必要とする患者がいるので市場撤去は適当でないとしている。しかし、ANSMは、第3・第4世代経口避妊剤は2013年4月からもはや保険医療システムにおいて償還されないと広報した。医師たちはそれらの処方の節減をうながされることになる。当局はさらに、助産師や看護師がこれらを処方できなくすることなども計画中である。
ANSMのスポークスパースンは「新薬が発売されると医師がすぐ大量にそれらを用いるようになるのがフランスのシステムの奇妙な習性である。現在では第3・第4世代経口避妊剤が若い人たちが第一に選択する経口避妊剤になってしまっている。われわれは悪しき習性を是正し、正しい使用に戻すよう動いている。」と語った。米国では、バイエル社が第3世代経口避妊剤ヤスミンによる深部静脈血栓と肺塞栓に関して訴えられており、 約3500件に対して7億5000万ドル(約6700億円)を支払っている。さらに、約3500件が係争中である。Marion Laratの弁護士は同様の訴訟が30人の女性により数社に対し提訴の準備が進められていると語った。
フランスの保健大臣Marisol Touraine はEMA(欧州医薬品庁)に対し、第3・第4世代経口避妊剤の承認に「修正」(modify)を求めた。しかし、EMAはいま規制を行うことを正当化する新たなエビデンス(科学的証拠)は出ていないとしている。EUにおいては、加盟国はEMAが販売承認した医薬品は受け入れねばならないが、どのように用いるかの推奨は各国の規制庁が決めて良いことになっている。また、各国はそれらの医薬品の販売の一時停止をすることもできる。
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ANSMのスポークスパースンは「新薬が発売されると医師がすぐ大量にそれらを用いるようになるのがフランスのシステムの奇妙な習性である」と語っているが、これはフランスだけのことではない。健康保険財政の窮迫が言われているのに、日本ではあっという間に高価な新薬が医師により処方される「新薬シフト」は、常日頃誰しもが目にする日常茶飯事である。「薬漬け」といわれる過剰投与の状況もなかなか改まらない。ここで問題とされた第3・第4世代経口避妊薬へのフランスの姿勢・対処法などには、大いに学ぶべきことがあるので、注目情報として紹介した次第である。
なお、日本では、日本オルガノン社が第3世代の「マーベロン」の販売承認を申請していた。中央薬事審議会は1999年6月、WHOが指摘したリスクは否定できないとして、第1・第2世代経口避妊剤の使用が適当でない場合に投与を考慮する(第一選択薬とはしない)よう添付文書に盛り込むことでマーベロンの承認を可とする答申を行い、マーベロンは承認された。日本オルガノン社はこれを不満としマーベロンの日本での発売を見送ることを決めた。こうしたいきさつがあり、日本には第3・第4世代の経口避妊剤は存在しない(★)ものの、2010年に第4世代の黄体ホルモンであるドロスピレノンを含む「ヤーズ配合錠」が月経困難症を適応として承認・市販されておりそのリスク・ベネフィットの評価に課題を残している。
新薬の採用は慎重に行い、「新薬シフト」が改められることを期待したい。 (T)
【2013年9月追記】
1. 訂正(上記★印部分)
2013年4月掲載の際、マーベロンは、日本では2000年頃に発売が見送られ販売されていないと記していました。しかし、それから5年余りが経過した2005年に販売されていたことが判明したので、ここに訂正いたします。
2. 2013年6月のカナダでの副作用報道
2013年4月掲載の注目情報において、米国では、バイエル社が第3世代経口避妊剤ヤスミンによる深部静脈血栓と肺塞栓に関し、訴えを起こされていることに言及した。その後、2013年6月11日、カナダのCBCは、世界で最も多く用いられている経口避妊剤であるバイエル社のヤーズとヤスミンについて、国内600人の副作用が報告され、うち突発性の血栓などで23名以上が死亡していると報道した(※1)。日本では、ヤスミンは未発売であるが、ヤーズは経口避妊剤ではなく月経困難症薬として2010年11月から販売されており、2012年度における日本国内の売上高は58.3億円、前年比86%増の成長製品となっている。
【2014年1月追記】
厚労省がヤーズ錠の安全性速報(ブルーレター)を発出
2014年1月、厚労省は「月経困難症治療剤ヤーズ®配合錠による血栓症について」の安全性速報(ブルーレター)を発出するとともに、添付文書の「使用上の注意」に「警告」を新設して注意喚起した(※2)。
因果関係が否定できない血栓症による死亡が3例報告されたことを記し、服用患者に血栓症が疑われる症状があらわれた場合は投与を中止するなど注意喚起をしている。
しかし日本ではこのように「死亡例が出ているので注意するように」との警告にとどまり、第3.4世代の薬剤では血栓症のリスクが高いことはふれず、処方についての何らかの規制もされないなど、フランスなどの対応と大きく異なっている。
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- 関連資料・リンク等