米国で適応外使用の販促に関与している医師は、7人に1人しか論文で企業との金銭的関係を適切に開示していない
2012-11-06
(キーワード: 利益相反開示、米国、適応外使用、販売促進)
著者である医師の製薬企業との金銭的関係が論説などでの医薬品の評価の記載に大きく影響することが危惧されている。このような利益相反の管理をどれくらい厳しくすべきかについては、必ずしも意見が一致していない。しかし、利益相反を開示すべきという点ではほぼ合意が得られている状況にある。それでは、開示は十分になされているのであろうか。
ここで紹介するのは、米国で医師の処方に影響力が強いオピニオンリーダーと呼ばれる医師たちが、適応外使用を扱った論説や論文における製薬企業との金銭的関係について開示しているかどうかを調べた研究結果である。ハーバード医科大学のAaron S. Kesselheim、Jerry Avornたちによりプロスメディスン2012年8月号に掲載された(※1)。
米国では医師が適応外処方を行ったり、適応外処方について論じたりするのは法で禁じられていないが、製薬企業が適応外使用について販売促進することは違法である。したがって製薬企業は自分たちに替わって適応外使用を推奨してくれる、多くの医師の処方に強い影響力をもつオピニオンリーダーに依頼する。そういう状況下にあるからこそ、オピニオンリーダーの利益相反の開示が重要なのだが、実際には開示は極めて不十分であった。
以下は、論文の要旨である。
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製薬企業は、製品の適応外使用を促進するために医師たちにお金を支払っている。しかし、適応外使用の推奨を企業に代わって行った医師たちが論文で企業との金銭的関係を適切に開示しているかは知られていない。
適応外使用の販売促進の問題は、以下のような要素から、研究者と企業との間の暴かれていない関わりを研究するためには格好な分野であるといえる。
1) 企業が直接適応外使用を販売促進することは違法である一方、医師が同僚とそうした使用について議論することは法にふれない。
2) 専門家のオピニオンは処方医師をかなり支配することができる。
3) 適応外使用による収入は企業にとってもうかるものであり、承認された用法からの収入を上回ることもしばしばである。
これらの要素は、適応外使用を推奨する医師を企業にとって重要な金づるにするものといえる。
この研究では、製薬企業と医師との間の適応外使用マーケッティング構造の詳細を明らかにする唯一の公的に得られるデータである公益通報の申立に焦点をあてることにした。
まず、米国司法省と他の利用可能な情報源から、違法な適応外使用のマーケティングを内容とする公益通報の申立を収集し(期間: 1996-2010年)、当該製薬企業と金銭的な関係があるとして公益通報の申立に記載された医師と研究者たちを特定した。
そして、それらの医師や研究者たちがその後の3年間に著者として執筆した論説・論文をメドラインで検索し、該当の適応外使用に関連した論説・論文における利益相反の開示について評価した。
具体的には、適切に開示を行っている頻度、著者(専門、著者順位)、論文(タイプ、適応外使用との関係、ジャーナルのインパクトファクター、年単位の引用回数)の特徴について分析した。
特定された利益相反を有する医師・研究者は39名であった。それらの医師や研究者は、公益通報の申立にある問題のある医薬品に関し404本の論文を出版していた。
それらのうち適切に情報公開していたのは,62本(15%)しかなかった。情報公開していないのが43%、製薬企業について述べていないのが40%と大部分であった。適切な利益相反の情報開示をしていた割合は記事のタイプで異なり、オリジナルな研究の報告に比し、論説では有意に開示の割合が低かった。半分以上の著者(22名/39名,56%)が適切な開示をしていなかった。この開示の割合は、他の調査がこれまで報告しているよりも低い割合であった。
この結果は、利益相反の開示について医師の率直さ・自律性に頼ることはできないことを示しており、またジャーナルの実務にも改善の余地があることを示している。
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日本よりも情報開示が進んでいる米国でさえも、利益相反の開示は極めて不十分であった。
利益相反については情報開示だけでは不十分で、より厳しい管理が必要なことを示しているともいえるのではないだろうか。 (T)
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