米国の専門医会が消費者団体と組んで不要な検査と治療を減らすキャンペーンを展開
2012-08-23
キーワード:米国の専門医会,賢く選ぶ(The Choosing Wisely),不要な検査と治療
9つの米国専門医組織が、米国内科委員会(ABIM)財団のHPにて「賢く選ぶ(The Choosing Wisely)」キャンペーンのウエブサイト(※1)を開設、「医師と患者が疑問を持つべき45の検査と治療」をリストアップし、不要な検査と治療を減らすよう呼びかけている。ニューヨークタイムズが取り上げた記事(※2)を紹介する。
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9つの米国専門医会が、消費者団体発行のコンシューマーレポート誌と組んで、米国内科委員会(ABIM)財団の後援のもとに、「賢く選ぶ(The Choosing Wisely)」キャンペーンのウエブサイトを開設し、各医会が、疑問を持つべき5項目の検査と治療をリストアップした。医師にはこれらの実施を控え、患者にはこれらを薦められたら質問することを呼びかけている。さらに、8つの専門医会が追加リストを準備している。
「米国医療の最も深刻な危機の一つが使い過ぎにある」との指摘があり、専門家達は、不必要な入院と検査、根拠のない治療、無効な新薬と医療機器、そして終末の無意味な治療が、米国における年間2兆ドルの保健医療費用の1/3を占めると推定する。9つの専門医会が望むことは、費用を削減し、医療の安全性と質を高めることである(*3)。
リストには、心臓のトラブルがなくてもルーチンで行われている心電図検査、腰痛を訴える患者に実施されるMRI検査、軽い副鼻腔炎に対する抗生物質投与なども含まれている。循環器学会は無症候性患者にルーチンで行う負荷冠動脈造影検査を控えること、放射線学会は単純な頭痛の患者に対する画像診断検査を行わないことを、消化器学会は逆流性食道炎の治療は最小限の処方にすることを、癌専門医には、肺がんと前立腺がんの初期で拡大していなければ造影検査を減らすように、腎臓専門医には、患者・家族と十分な話し合いなしに慢性透析を開始しないよう求めている。
このような情報提供に対して、多くの専門家と患者擁護団体は、情報が誤解され、あまりに広く受け入れられ、画一的に当てはめることにより実際には良い治療が損なわれるもことに注意すべきであると警告を発した。支払側(州,保険会社など)が患者の自己決定を制限する懸念もある。
多くの医師は専門家グループの勇気ある行動を賞賛したが、検査と治療を行わないことによる収入が減ることについてためらう者もいる。また消費者レポート誌の健康評価センター責任者で内科医のジョーンサンタ氏は、「私たちは不必要な心電図検査や骨密度検査を行なってきたが、それは収入のうちのわずかな金額に過ぎないという同業者もいるだろう」と語る。
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9つの内科専門医会は、アレルギー・喘息・免疫学会、家庭医会、循環器医会、内科医会、放射線医会、消化器学会、臨床腫瘍学会、腎臓学会、核心臓学会である。各医会が5つの項目を提示し、患者は、これらの情報を通じて、医師と会話し、適切な時に、適切な治療を受けることを確かなものにすることをめざしている(※3)。
リストの内容は画像診断に関するものが多くを占める。薬に関する内容としては次の項目がリストアップされている。軽い副鼻腔炎に対する抗生物質の使用、発熱性好中球減少症の一次予防のための白血球刺激因子の使用、腎臓病の患者での筋骨格の痛みに対するCOX-2やNSAIDSの使用、降圧薬の使用による体液貯留、腎臓病悪化の危険性、貧血症状のない軽度・中等度の患者へのエリスロポエチン製剤の使用、胃食道逆流性疾患に対するプロトンポンプ阻害剤やH2ブロッカーは最小限の量で、長期を避けること。
提唱されている内容は、日本の日常診療においても、極めて一般的に行われている検査や治療ではないだろうか。原文の記載にあるように、患者に請われて実施していたり、医療過誤訴訟への心配が動機となっているなど、医師自身は疑問を持ちながら実施していることが多いのではないかと思う。
現在さらに小児科、産婦人科、リウマチ科、老年医会等、8つの専門医組織がリストを準備している。日本の学会にもこのような動きを期待したい。(N.M.)