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副作用が原因の高齢者入院は、その3分の2は過量投与が原因であり、原因薬の67%を抗凝固剤と糖尿病治療剤等4種類の繁用薬が占めていた

2012-04-26

NEJM2011年11月24日号(※1)

キーワード:高齢者 救急入院 薬の副作用 ワーファリン 抗糖尿病薬 抗血小板薬

紹介する論文は、CDC(Centers for Disease Contro and Prevention)、DHQS(The Division of Healthcare Quality Promotion)に所属するDaniel S Budnitz博士らが、全米電子調査データをもとに米国における高齢者の副作用による緊急入院の発生頻度を推計した報告である。原因となった医薬品を分析したところ、高齢者に不適切とされる薬による入院はわずかに過ぎず、主な原因薬は、高齢者に繁用される抗凝固薬や糖尿病治療薬などの過量投与にあり、それら慢性疾患に使用する薬の使用管理の改善が高齢者の入院を減少し得ると言及している点が注目される。
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 医薬品による副作用は、高齢者入院の重要な避け得る原因である。しかし、それについての全米的なデータは限られたものしかない。2007-2009年の全米電子監視システム有害事象監視プロジェクトによる副作用調査データを用い、高齢者が薬による副作用のため救急受診後に入院した頻度と割合を推計した。また、高リスク薬または不適切な使用と判定されたものを含む特定の医薬品の寄与についても推計した。

米国においては、毎年670万人の救急入院があるが、高齢者の1.5%が薬の副作用による入院であった。

調査対象の、薬の副作用による入院5077症例をもとにすると、2007-2009年の各年に65歳以上の高齢者において約10万人の副作用による救急入院があると推計された。この数は、精神錯乱やうつによる救急入院数(75,000人)より多く、車両事故による救急入院数(110,000人)や、皮膚・皮下組織感染症による入院(118,000人)に近い。

これらの入院の約半数は80歳以上の高齢者であった。併用薬の数が増えるほど入院比率は上昇した。入院の約3分の2は故意でない薬の過量服用が原因であった。また、原因となった薬剤の67.0%を4種類の薬剤が占めていた。それらは、繁用されているワーファリン(33.3%)、インスリン(13.9%)、 抗血小板剤(13.3%)、経口血糖降下剤(10.7%)であった。

一方、HEDIS(The Healthcare Effectiveness Data and Information Set)にて高リスク薬とされている薬剤との関連性は入院の1.2%を占めるに過ぎなかった。また、Beersリスト(※2)に関連した高齢者に不適切とされる薬による入院は6.6%であり、その半数以上はジゴキシンによるものであった。このように入院の原因は高リスク薬や不適切とされる典型的な薬剤によるものはわずかであり、むしろ慢性疾患に対して普通に使われる薬剤が原因であった。

ワーファリンによる入院のうち、出血による入院は21,020人と推測され、そのような入院を避けることができれば、毎年1億ドルの医療費の節約になる。

内分泌系薬に関係した入院のほとんどすべてが低血糖によるものであった。それらの入院の2/3は、意識消失発作や精神症状の変化等の中枢神経系の症状を合併していた。

抗凝固剤や糖尿病治療剤の管理の改善により高齢者の副作用による入院を減少させ得ると考えられた。慢性疾患に使用する薬の安全な使用をモニターする施策を実施することは、不適切な薬の使用を単純に検出する施策を実施することより有意義である。
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「いったい副作用はどの程度発生しているのであろうか?」、この問いかけに関して、津谷喜一郎氏が、「市場撤退した医薬品―副作用の諸相」(※3)にて、CIOMS(Council of International Organaizations of Medical Sciences 国際医科学協議会)レポートのレビュー(※4)から、1970年代以降の薬剤疫学研究を紹介されている。

その中で、副作用が原因の入院に関して、Einarson(1993)(※5)による英語論文36件のレビューからは平均5.5%、Lazurouら(1997)(※6)による39件の前向き研究のメタアナリシスでは、深刻な副作用の発生率は6.7%、そのうち、2.1%が入院中に発生し、4.7%が副作用による入院であったことが紹介されている。

 これらの報告に比較して、本論文での副作用による救急入院の頻度は、1.5%、年間およそ10万人と推定されており、低い推定結果である(Lazurouらは年間副作用死が106,000件と報告している)。この点に関しては、報告者自身が、データの限界があり、救急入院数を低く見積もった可能性があることを考察の中で述べている。

本論文の意義は、副作用入院の原因薬が、治療薬として有用な意義を持つ抗凝固薬や、抗糖尿病薬、抗血小板薬が67%を占めており、主としてそれらの過量投与によるものであったという点であろう。日常診療においても、高齢者の慢性疾患治療による副作用入院や副作用死を避けるために、個々の患者のリスクと利益を注意深く検討した上で必要性を判断し、投与に当たっては、高齢者の代謝や排泄等の機能低下を考慮した投与設計が必要である。(N.M.) 

※1 Daniel S et.al;Emergency Hospitalizations for Adverse Drug Events in Older Americans.N Eng J Med.365,2002-2012(2011)

※2 Beers Criteria(Beersリスト)は、米国のベアーズらによりリストアップされた「高齢者に不適切な医薬品リスト」。我が国では、国立保健医療科学院(http://www.niph.go.jp/)の今井博久疫学部長らの研究グループが「Beers Criteria 日本版」をまとめ、同科学院ウェブサイトで公表した。

※3 津谷喜一郎;「市場撤退した医薬品―副作用の諸相」,ファルマシア,43(11)1097―1102(2007)

※4 “Pharmacogenetics:Towards Improving Treatment with Medicines.”CIOMS,Geneva,2005;津谷喜一郎(監訳),“ファーマコジェネティクス−薬物治療の改善を目指して”,テクノミクス,東京,2005年

※5 Einarson T.R.Ann.Pharmacother,27:832-840(1993)

※6 Lazarou J.et.al.;JAMA.279,1200-1205(1998)

関連資料・リンク等