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配合剤の承認はリスクと利益を全般的に評価した上で

2011-11-22

(キーワード:相乗効果、誇大広告、害、市場利益)
 
 NEJM誌が「医薬品の歴史: 配合剤―誇大広告、害、期待」の論説を掲載している(※1)。何種類かの同じような薬効,あるいは,異なる薬効を持った成分を1つの薬の中に配合した医薬品を配合剤という。ここ数年、配合剤の承認が相次いでいるが、配合剤の価値をどう見るのかを考えるうえで、この論説は重要な指摘である。以下に要約を紹介する。
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 配合剤は、ある種の感染症やがん治療を可能にし、また複雑な処方を簡単にして服薬遵守を促進するのに必要とされるかもしれない。これまでFDA(米国食品医薬品局)は配合剤の承認に、相乗作用がある(各構成成分単独よりも、配合した方が有効である)という証拠を要求し、この規制方法が配合剤開発の主要な障壁となってきたが、最近、この規制のあり方を見直す動きに政府、製薬業界双方が注目している。配合剤が、薬物治療の将来にどんな役割を果たすのか、歴史を振り返って教訓を見てみよう。

 1950年代前半までに、広域抗生剤(多種の微生物に効力を示す)が爆発的に売れ大ブームを起こした。次の波は、相乗作用理論と広い用途のある配合剤によってもたらされると予測した製薬業界は、FDAの抗生剤部門責任者ウェルチ氏の支持を得て、シグママイシン®(テトラサイクリンとオレアンドマイシン)のような配合剤を、明確な証拠のない、医師の体験談ばかりの広告に何ページも割いて推進した。

 先駆的な感染症研究者らは、これらの配合剤には各成分の効果を上回る有効性を確かめることができず、薬剤そのものよりも市場優先であること指摘し、その議論が公開された。

 1959年に開かれた製薬企業への公聴会で、ウェルチ氏と製薬企業の利益相反が明らかになり、適切にコントロールされた試験に基づく有用性の証明を必要とすることが、配合抗生剤の承認条件に組み込まれた。
1960年代の終わりまでに再評価が行われ、配合抗生剤は1つ残らず排除されたのだ。もっとも明らかな害が証明されたアップジョンのパナルバ®(テトラサイクリン+ノボビオシン)は、構成成分の拮抗作用により効果が打ち消されていた。

 1971年にはこれらの配合薬が市場から一掃され、FDAはどんな新しい配合剤も、各構成成分を合わせたよりもすぐれた治療上の有用性がなければ承認しないことを宣言した。そして1974年、バクトリム®(トリメトプリム-スルファメトキサゾール)が、微生物の葉酸代謝の過程に相乗的に作用することが証明され、最初の固定用量配合剤として承認されたのだ。

 21世紀の配合剤開発もまた、期待、誇大広告、害の可能性の混合物である。近年の相乗作用(協働作用)はシステム生物学的な複雑なものであるのに加えて、エイズや結核、マラリア、代謝病、高血圧、うっ血性心不全のような現代の疾病の多様な病態は、併用療法の必要性を増大させている。それぞれの錠剤、カプセルをバラバラで飲むよりも大きな効果がないとしても、配合剤として服薬遵守の簡便性を増すことにより、実際、高い有効性を示す証拠が存在する。1997年発売の抗HIV薬コンビビル®(ジドブジンとラミブジン)は、元薬剤の服用の負担を半減し、次々と多数の配合剤が続いた。

 一方で、特許期間の延長策と批判される詐欺的なケースもある。ファイザーが2004年に発売したカデュエット®(アムロジピンとアトルバスタチン)は、2003年に特許切れとなるノルバスク®(アムロジピン)の後発品参入に対する防壁である。これにより特許期間は2017年まで延長した。カデュエット®は、プラセボに比べて有効であったが、手頃な価格の後発品処方よりも、単に高価な薬剤を合わせた薬が、服薬遵守を高めるなどと誰が考えるだろうか。

 現在の規制方法では、「新たなパナルバ®」(元成分よりも薬学的有効性のより小さい薬剤)が承認されることはないが、もっぱら薬剤のみを評価することにより現れうる、別のタイプ害は残る。ファイザーは、期待の新薬トルセトラピブ(コレステリルエステル輸送タンパク阻害剤)を、アトルバスタチンとの配合剤として承認を得ようと画策したが、その臨床試験で、配合剤の群はリピトール®(アトルバスタチン)単剤群よりも心血管系死亡を60%増加させる結果となった。配合新薬開発の熱意はいったい、科学的、臨床上の革新なのか、それとも生き延び策・市場利益を画してのものなのか、という疑問を投げかけている。

 21世紀の独創的配合剤は、システム生物学と服薬遵守の行動生態学に基づくものとなろう。21世紀のこのような薬剤の共同開発をスリム化しようとFDAが動いているが、全リスクとベネフィットを広くとらえ、「期待」「誇大広告」「害の可能性」を見極められる評価方法にしていくチャンスでもある。 
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 我が国において配合剤は、これまでも一般用医薬品に広く利用されてきた歴史があり、有効性が不明な、あるいは不必要・危険な配合成分などの見直しがされないまま市販されている実態もある(※2)。

 医療用医薬品においても、この10年ほどで、配合新薬の承認が増加傾向にある。低用量ピル(卵胞ホルモンと黄体ホルモンの時期によって異なる用量を組み合わせたもの)が、その服用方法の複雑さのため各メーカーがさまざまな服薬支援ツールを提供したのは記憶に新しい。

 喘息治療におけるステロイド剤と長時間作用型β刺激剤(気管支拡張剤)アドエア(要望書提出時薬品名セレタイド)の承認に際して、当会議は、各配合成分の危険性に加えて、配合し長期維持療法として用いることにより危険が増大するとして承認しないよう要望書(※3)も出してきた。

 この数年の医療用薬配合剤の特徴は、作用機序の異なる緑内障の点眼薬剤や血糖降下剤の組み合わせ、血圧降下剤と脂質低下剤といった異なる病態に対する処方薬の組み合わせである。

 これら配合剤は、臨床で使用されたときに起こりうるあらゆる可能性に対する想像力を働かせて、「期待」「誇大広告」「害」のいずれであるのかを見極める必要がありそうだ。その前に、我が国においても、配合薬の明確な承認の条件を設けるべきであろう。(N)