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「アクトス等のグリタゾン類の使用を正当化するエビデンスはほとんどない

2008-10-24

(キーワード:アクトス、アバンディア、グリタゾン類、ロシグリタゾン、ピオグリタゾン、2型糖尿病、うっ血性心不全、心不全、虚血性心疾患、メタアナリシス)
 
 Heart誌2008年8月29日号の論説は15ページにわたっており、糖尿病治療薬のグリタゾン類(ロシグリタゾンとピオグリタゾンを指す)は臨床上の有用性を示すエビデンスがほとんどないと発表した(註1)。ロシグリタゾンは商品名アバンディア(グラクソスミスクライン社)、ピオグリタゾンは商品名アクトス(武田薬品)である(註2)。
 糖尿病は血糖値が高くなり結果として、全身で血管関連の障害を起こす病気であるが、2007年の米国心臓病学会と米国糖尿病学会の声明によると、2型糖尿病(註3)の患者では22%が虚血性心疾患をおこし、高齢者で新たに2型糖尿病と診断された患者の10年をみると55%がうっ血性心不全をおこしている。そして、患者の3/4以上が心血管障害で死亡しているという。
 糖尿病治療薬のゴールは合併症を減らすことであるが、先頃、糖尿病薬で血糖値を下げる強化療法では標準治療に比べて死亡率が高くなったとして長期大型臨床試験が3年半で中止になったというショッキングな報告が出た(NEJM誌2008.6)(註4)。 Heart誌の論説の著者は、これまで糖尿病治療薬は血糖値を下げれば合併症も減少すると言う推論のもとに承認されてきたがグリタゾン類では今やこの推論は誤りであることが明らかになったと述べている。臨床現場の医師にはグリタゾン類の有害作用が十分理解されていないと言い、あらためてここで、グリタゾン類の使用制限を勧告している。以下に、Heart誌の論説を要約した。
 薬害オンブズパースン会議では、すでに「アクトスの販売中止と回収」を求める要望書および、公開質問書「アクトスは糖尿病治療薬としては不適です」を武田薬品に提出している(※1)。
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 血糖コントロールと心血管リスク:最近報告された大型の三つのランダム化比較試験(註4)でいづれにおいても、血糖を下げる強化療法が2型糖尿病患者の心血管疾患の死亡率あるいは疾病率を減少させていない。ACCORD試験では、むしろ死亡率が有意に増加している(註2)。
なぜ、強化療法で糖化ヘモグロビン値(註5)を下げても心血管リスクを減らせないのか。最近承認された経口糖尿病薬(グリタゾン類)でおこる心血管イベントのせいで、期待と逆になってしまっている可能性はないのか、心血管イベントに焦点をあてグリタゾン類の臨床試験を検討した。

 グリタゾン類と心不全:EUでは心不全の患者には心不全のステージにかかわらず禁忌になっているが、米国では初期のステージには使用出来る。我々が2007年に報告したメタアナリシスでは(Diabetes Care 誌2007)、2型糖尿病あるいは前糖尿病症状の患者で行われたプラセボ対照試験を解析したものであるが、2型糖尿病でうっ血性心不全が2倍になった。その後のメタアナリシスでもロシグリタゾンに関連した心不全の増加が報告されている(Lancet誌2007)。心不全の増加は、ロシグリタゾンとピオグリタゾンのグリタゾン類に共通したクラス効果のように見える(註6)。

 グリタゾン類と虚血性心疾患:長期試験と短期試験をあわせた42の試験のメタアナリシスでは、ロシグリタゾンで心筋梗塞のリスクが有意に増加した(NEJM誌2007)。我々が12ケ月以上の長期試験四つにかぎって行った別のメタアナリシスでは、ロシグリタゾンの使用で心筋梗塞が増加し、心不全のリスクも2倍になった(JAMA誌2007)。ロシグリタゾンではいくつものメタアナリシスや観察スタディーで約40%も心筋梗塞のリスクが増加することが示されており、投与量の増加と共にリスクが増加することも報告されている。
 一方、ピオグリタゾンでは心筋梗塞は増加させないように見える。しかし、ピオグリタゾンは、プラセボ対象の長期大型試験(PROactive試験)(註7)で、主要評価項目(すべての大血管イベント)を減少させることができなかった。ただし、第2の副次的評価項目(心筋梗塞、脳卒中、全死亡の複合エンドポイント)ではわずかに有意の減少を示した(Lancet誌2005)。この試験で見落としてはならないのは、ピオグリタゾン群で大血管イベントは58例でプラセボ群より少なかったが、うっ血性心不全は115例であり、逆転して増えていることである。最近のメタアナリシス(JAMA誌 2007)では、ピオグリタゾンが心血管リスクに好ましい効果を与えることを示したが、これらはPROactive試験のデータのためにそういう方向に結論づけがなされており、うっ血性心不全を考慮に入れていない。PROactive試験を除いた94の試験の別のメタアナリシスでは、ピオグリタゾンは心筋梗塞に影響を与えないと結論している。たしかに、ピオグリタゾンは心筋梗塞のリスクを増加させないようであるが、心血管イベントのリスクを有意に下げるかどうかは不明である。

 グリタゾン類と骨折、黄斑浮腫: 最近の臨床試験と観察スタディーでは、ロシグリタゾンとピオグリタゾン共に、2型糖尿病患者で閉経後の女性に使用した場合に骨折リスクが2倍になることが示された。市販後調査と副作用報告により明らかになった黄斑浮腫と失明のリスクの増加については、さらに調査が必要である。

 2型糖尿病の治療の目標は、代謝異常と血管合併症を減らすことであるが、これまで経口糖尿病薬の承認には“糖化ヘモグロビン”の減少データが要求されるだけで、血管の合併症が減少するか否かは問われなかったのである。我々はこの20-30年、血糖値を下げれば合併症も減少すると言う推論を信じてきたが、代理マーカーで本来あるべき健康上の有効性を推論するというアプローチの方法は誤りであることが、グリタゾン類で明らかになった。2007年7月、米国FDAの内分泌.代謝薬諮問委員会では、新規の経口糖尿病薬の承認には臨床上のイベントの減少を示すデータを要求することが圧倒的多数で決定している。
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 スクリップ誌2008年9月5日号ではこの論説を紹介して、グラクソスミスクライン社と武田製薬のコメントを載せている。両企業は共通して「規制当局や臨床家達が広範囲のリスクベネフィットを審査して有益性がリスクをうわまわると結論したものである」と使用制限に反論している。
 Heart誌の論説と機を一つにして、プレスクリール.インターナショナル誌(2008年10月号)が、再度「アクトスを使用しないように」の記事を掲載している(※6)。  (S)



註1:Heart誌は、英国医学雑誌(BMJ)グループが発行する心臓病の専門誌(※2)。    

註2:アクトスは99年、日本、米国、カナダで承認、2000年にEUで承認。アバンディアは99年、米国で承認。2000年、EUで承認。

註3:2型糖尿病はインスリンの量が少ないか、量があってもインスリン抵抗性で組織に糖が取込まれにくい状態。日本人の糖尿病患者の90%は2型と言われている。

註4:ACCORD試験 (※3) 

註5:ACCORD試験、ADVANCE試験、VAスタディー

註6:糖化ヘモグロビン値は、過去1-2ケ月の血糖値のコントロールの指標となる数値

註7:アクトスについて、医薬品機構の「副作用が疑われる症例報告」(※4)を見ると心不全の報告件数が圧倒的に多く、肝機能異常がそれに続く。2005年、2006年、2007年の報告件数は(年度順に)、心不全で48、42、30。肝機能異常で、7、7、6。心筋梗塞で、1、0、2。死亡症例は、2004年5例、2005年2例(2006、2007年については症例報告がまだ掲載されていない。2008.10.7アクセス)。

註8:PROactive試験の概略は、武田製薬のホームページで見られる(※5)。欧州19カ国で実施、患者数は5,238名。心筋梗塞、冠動脈バイパス術、脳卒中の既往がある患者を対象に、通常の治療に加えアクトスまたはプラセボを追加投与(無作為割付け)。3年間。