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「医師のゆるぎのない誠実さが今、必要」

2008-09-19

(キーワード:向精神薬、誠実な医師、プレスクリール・インタナショナル誌、プレスクリール誌、Prescrire)

 「プレスクリール・インタナショナル」誌2008年8月号の論説「ゆるぎのない誠実な医師」を以下に紹介する。プレスクリール・インタナショナル誌は、フランスで発行されている薬と治療についての独立情報誌「プレスクリール(Prescrire)」(*訳註1)の英語版である。プレスクリール誌の情報は世界中から関心が持たれているため、プレスクリール誌の主要記事が「プレスクリール・インタナショナル」として英語で隔月発行されている。  
 この論説では、医師、とくに開業医に向けてまず患者の「話を聴くこと」「時間をかけること」と語り掛けるとともに、安易な薬の処方(特に向精神薬)はしないようにと呼び掛けている。これを読むと、医師だけでなく、むしろ私達患者・市民も耳を傾けなければいけない論説であると気がつく。医師が安易な処方を慎むようになるためには、患者側の態度いかんも大いに影響するからである。
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 医師はある薬を処方したり勧めたりという、医師にとっては安易な方法をとるように各方面から働きかけられるが、これに抵抗するのは恐ろしく堅固なゆるぎない意志が必要である。特に患者が、彼らを悩ましているものが何であれ、ある薬が奇跡的な治癒効果を持つと思い込んでいる場合や、さらに、メディアやオピニオンリーダーがその薬の奇跡をー副作用もなくちょっと良い薬の感じをー信じ込むようにわれわれをプッシュしている場合である。  
 なぜ、悩みつつも、安易な方法に抵抗するのか?
 保健医療専門家はすべての治療が副作用を起こす可能性があり、期待する有効性より潜在的な有害性が大きくなることがあることを知っているからである。そして、保健医療専門家の第一の義務は「患者を傷つけない」ことである(訳註2)。
 保健医療専門家は、睡眠障害のようなちょっとした訴えがもとで、向精神薬の依存症に陥ってしまっている人達をあまりにも多く診てきている。他の治療法があったにもかかわらずである。こういった患者に、その薬のリスクが有効性を上回るのだと説明するのは至難のわざである。 しかし、それでもやはり、患者が薬物依存から抜けだせるように手助けするために時間をかけることが必要である。時間をかけて説明することには価値があることを示す研究がいくつかある。不眠症のような訴えに対しては薬を使わない選択肢がたくさんある。結局、なぜ、どうして悪い方向にいってしまい、そういう結果になったのか生理学的な説明をする時間をとらねばならない。患者の将来の健康のためには時間をかけることが大切で、そうすることが、彼らが復帰する手助けとなる。
 薬は時に困難な時期には役にたつ。しかし、最初から多くの用心が必要である。最小有効量を処方すること、初めから投与計画に中断を入れて断続的に服用すること、少量ずつ分包すること、などである。

 苦しんでいる患者に向き合ったときに保健医療専門家がまず初めに行わねばならないのは、聴くことである。そして話し合い、説明する。それから、有益性−有害性のバランスが満足の行くような治療を選ぶ。人生にはつきものの浮き沈みの悩みに対して、薬剤の過剰投与や病気づくりの方向に行ってしまうことを避けるために必要なのは、何よりも、医師のゆるぎない誠実さである。 (S)



訳註1 「プレスクリール(Prescrire)」誌:フランス語で、内容は以下の5項目から成る。読者は、主に医師、薬剤師、保健医療専門家。「新薬の評価」の項はWHOの要請により、CD-ROM 版WHO?プレスクリールとしても発行されている。

 新薬の評価: フランスで販売されるすべての新薬について、リスク.ベネフィット比、利便性とコストに基づいた評価と批判。
 副作用情報: システマティックな監視を通して新しい害作用と認められたもの。
 戦略: 最も信頼性のある国際的な評価によるデータに基づいた治療と診断の戦略。
 窓:  経済、政治、倫理面からみた保健医療。
 広場: 読者からの手紙。既報の論説の技術面における議論。

訳註2「患者を傷つけない」は、ヒポクラテスの誓いにある言葉。紀元前400年医学の父といわれるヒポクラテスは、医学の倫理の根幹をなすヒポクラテスの誓いを書いた。

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