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コレステロール低下剤の新薬バイトリンの臨床試験結果隠しが米国で社会問題に

2008-04-22

(キーワード: LDLコレステロール、バイトリン、スタチン剤、エゼチミブ、米国、情報隠し)
 
 「悪玉コレステロール」と言われているLDL(低比重リポ蛋白)コレステロールを強力に下げたが、動脈硬化の抑制がみられず、心筋梗塞や脳卒中の発症にも抑制の傾向がみられなかったという臨床試験結果が、米国で試験が終了してから2年経ってから公表され、波紋を起こしている。
 バイトリン(Vitorin、日本未発売)は、コレステロール低下剤のベストセラー新薬である。従来から使われているコレステロール低下剤であるスタチン剤シンバスタチン(日本での商品名はリポバス)に、新たな作用機序のエゼチミブ(商品名はゼチーア、小腸でコレステロールの吸収を抑える初めてのトランスポーター阻害剤)を組み合わせたメルク/シェリングプラウの製品である。LDLコレステロールを強力に下げ、そのことで動脈硬化を予防し、心筋梗塞や脳卒中を防ぐというのがうたい文句となっている。日本には、スタチン剤にエゼチミブを組み合わせた製品(配合剤)はないが、成分がエゼチミブのみの製品(単味剤)である新薬ゼチーアが、スタチン剤とともにゼチーアを用いれば大きな効果を発揮すると大宣伝されている状況にある。
 バイトリンの市販後臨床試験として米国で、心筋梗塞や脳卒中のリスクが高い家族性高コレステロール症患者で、バイトリンをシンバスタチン単味剤(ゾコールZocor)と比較するランダム化比較臨床試験(試験名ENHANCE)が行われた。
 この試験成績が、2008年1月14日に発表された。バイトリンはゾコールと比較してLDLコレステロールを顕著に低下させたが、主要評価項目(プライマリー・エンドポイント)である動脈硬化の進展を示す内膜-中膜の厚さ(超音波で測定)では両群に有意差がなく、臨床的な評価項目である心臓病や脳卒中の発症予防などでも抑制の傾向がみられなかった。すなわち、期待したエゼチミブ(ゼチーア)を配合したことによる上乗せ効果は示されなかったのである。
 この結果の発表(※1)でバイトリンの処方が急減し、メルク/シェリングプラウの株価が下落した。そして、エゼチニブがLDLコレステロールを顕著に低下させたにもかかわらず、動脈硬化や心臓病の発症予防に効果がみられなかったこの試験結果は、バイトリン服用者にとどまらずコレステロール低下剤スタチンを常用する患者に大きな不安を与え、FDAが患者や医療関係者に平静を呼びかける事態となっている(※2)。
 この試験は2006年4月に終了した。しかし、その後期待された米国循環病学会(ACC)や米国心臓病学会(AHA)での結果発表がなく、発表は大幅に遅れ、試験管理委員会が主要評価項目(画像診断による内膜-中膜の厚さ)の変更を検討していることが伝えられていた。結局主要評価項目の変更はされず、2008年1月14日になってやっと結果についてのプレスリリース(記者発表)がなされた。プレスリリース後、ロイター通信(※3)をはじめ各マスコミは試験結果を大きく報道した。
 問題とされたのはこの試験結果の発表が遅れている間に、バイトリンやゼチーアがテレビのDTC広告(患者・市民に対する直接広告)で大宣伝され、ベストセラーとなったことである。2008年1月26日、ニューヨーク州の検事総長は、失敗に終わった試験結果の隠蔽があったのではないかの調査のために、メルク/シェリングプラウに対して資料の提出を命じた(※4)。コネチカット州の検事総長もこれに続いている(※5)。議会は、試験結果の発表が遅れた間に会社が大きな利益をあげたこと、また会社幹部が結果の発表前に多額の株を売り払ったことを調査している。議会はまた、ビトリンを擁護するコメントを発表したACC、AHAなどの学会の客観性(Objectivity)について、利益相反の観点から、製薬企業から学会への金の流れを調査している(スクリップ誌2008年1月23日号、FDCレポート・ピンクシート誌2008年1月21日号など)。 (T)