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「企業の資金による米国の医学教育は再考を」

2008-04-22

(キーワード:医師生涯教育CME、生涯教育認定機構ACCME、企業からの運営資金、利益相反)

 すでにこの欄で紹介したが、大手製薬企業であるリリー社は、米国内での寄付金を全面的に情報公開した(※1)。これによると、2007年 4半期に提供された寄付金のうちおよそ9割は、「医師生涯教育プログラム」(CME)[註1]に提供されている。このことは、企業がいかに医師の教育現場に熱い視線を送っているかを示すものであろう。医師を教育する場は企業にとって自社製品の格好の売り込みの場である。
 このような状況下で、米国の「医師の生涯教育」は「援助」の名のもとに企業の資金に大きく依存するようになってきた。この医師教育の現状を憂慮し、2007年秋、米国の医学教育関係の首脳陣が「医療専門家の生涯教育」のあり方に関する会議を開催した。ハーバード大学医学部のスーザン.フレッチャー教授を議長とした36人から成り、米国医師会雑誌(JAMA)編集長や米国国立科学アカデミー医学研究所 (IoM) 所長も参加している。スクリップ誌2008年2月6日号の記事「企業の資金による米国の医学教育が再考を求められている」を紹介する。

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 この「医療専門家の生涯教育」会議の報告書には、「医師生涯教育プログラム」(Continuing Medical education : CME)への企業支援の状況について、2年間にわたって調査を行ってきた上院財務委員会の多くの指摘が反映されている。上院委員会はCMEの認定をおこなう組織である「生涯教育認定機構」(Accreditation Council of CME: ACCME)に問題があるとしている。「生涯教育認定機構」の審査、監督の杜撰さは、審査されたはずの「医師生涯教育プログラム」の1/4が「生涯教育認定機構」の基準に合致していなかったことに示されていると、きびしく指摘していた。

「医療専門家の生涯教育」会議では、「CME活動費3800億円24億ドル(約3000億円)に対して、営利目的の企業からの支援が6割以上にも達している」と指摘し「『医師生涯教育プログラム』という織物の中に、バイアスがずっと織り込まれ続けて来た。このプログラムを通じて医薬品の評価を教育する立場の医師や看護師が、当の医薬品メーカーから雇われているとすれば何をか言わんやである。現在の「生涯教育認定機構」は不必要に複雑になっている一方で十分にきっちりとしていない」として、「生涯教育認定機構」の改変を提案した。

「医師生涯教育プログラム」(CME)の資金をどう捻出するかについて、利益相反を憂慮した医学専門家グループはすでに2年前に、企業からの資金の扱いについて、つぎのような提案をしている。医学部に中央基金をつくり、企業からの資金は中央基金にのみ入るようにし、認定された「医師生涯教育プログラム」への支払いは中央基金から行う、というものである。今回の報告書はCMEの活動費用は,医療専門家やその雇用者,第三者などが出すべきで,企業からの資金は5年かけて段階的に削減し,なくすべきであると提案している。
 
註1.「医師生涯教育プログラム」(Continuing Medical education : CME):
全米のほとんどの州で医師が免許を持ち続けるためには、継続的に生涯教育を受けることが義務付けられている。この教育プログラムを、「医師生涯教育プログラム」という。このプログラムを提供するのは、医学部、病院、学会などの組織のほかに、民間の医学教育コミュニケーション会社などがあるが、「生涯教育認定機構」(Accrediting body of CME: ACCME)という専門機関の認証を受ける必要がある。 (ST)