製薬企業は欧州の患者との「より自由なコミュニケーション」を法改正で期待
2008-03-31
(キーワード:処方薬の消費者への直接広告(DTCA),EU,ニュージーランド,アメリカ合衆国,広告,患者とのコミュニケーション,病気づくり)
2007年11月の注目情報にて、“処方薬の消費者への直接広告(DTCA)―ニュージーランドの経験からEU への警告”(※1)を紹介した。2002年にヨーロッパ議会が一旦却下したDTCAに関する法案を、ヨーロッパ委員会(EU行政を担当する機関)が形を変えて再度提案しようとしている動きに対するニュージーランドの研究者からの警告である。
そこでは、EUへの助言として、企業が客観的と称する情報は、消費者の選択をあやつるだけで、薬物治療への依存と、長期的な安全性がわからない新薬に多くの市民を駆り立てるだけである。医療予算のコストを増額させるだけであり、公衆衛生全体を危険に曝すことになる。 目指すべきは、薬についての選択をする必要がある消費者が、独立した情報を入手しやすくするための国際的な協同作業への参加であろうと結んでいる。2006年にニュージーランド政府が募集したパブリックコメントでは、独立した患者や消費者団体の90%、全投稿者の3分の2はDTCAに反対であったことが紹介されている。
2007年12月のヨーロッパ議会では、DTCAに関する法案提出予定が2008年10月であることが明らかにされた。すでに2007年4月から提案内容が協議されており、製薬企業側は、消費者広告の提案ではなく、「広告」と「情報」を区別する基準の検討であると主張している。
BMJ誌2007年12月15日号で、ヨーロッパ委員会での論議が紹介されており、以下に要約した。
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ヨーロッパ委員会は、2008年に製薬企業が患者に提供できる情報についての規制を緩和する法案を提出しようとしている。
その目的は、製薬会社が患者に情報を提供することを禁止している現行法を緩和するというものである。ヨーロッパ委員会はその提案内容を2007年4月からコンサルテーション(関係者の意見聴取)に付していた。
2007年12月のヨーロッパ議会で、ヨーロッパ委員会の産業担当局長であるChristian Siebert氏は、法案の提出を目指すおおよその時期は2008年10月であることを明らかにし、委員会は患者に提供する情報を規定する基準を確立することをめざしており、それは、最新の根拠に基づいたもので、十分吟味し、バイアスのないものだと述べた。
法改正を指示するJorgo Chatzimarkakis議員は、「これは広告についてのことではない。我々が行なっている作業は、情報と広告を質的に区分する基準を作成することである」と主張した。
しかし、ヨーロッパ消費者協会の代表であるJim Murray氏は規制緩和に反対しており、「情報と広告の区分は不可能である。もしそうしたことが許容されるなら、明らかな利益相反をもたらす」と警告した。「製薬会社からの健康情報には、病気づくりを促進し、薬に頼らない治療や生活スタイルへのアドバイスとは逆方向のバイアスが存在する。また、医師と患者の関係にもプレッシャーをかける」と述べた。
ヨーロッパ医師会長のDaniel Mart氏は、議会の公聴会で、「規制緩和は、製薬会社が患者に提供する情報が完全で、公平であることが確かであれば、それは有益である。しかし、良い情報を得た患者とは問題を生じないが、悪い情報を得た患者との間では、大きな問題をもつことになる。医師は必要とするすべての情報を製薬会社からいつでも得ているわけではない。企業は、都合の悪い情報を知らせない。全ての情報が得られるべきであり、十分な透明性がなければならない」と述べ、患者に提供される情報は正当性が証明されなければならないと付け加えた。
情報に関する質的基準、正当性の証明、規則違反に対する罰則等の法的骨子は、2008年の立法化の中で取り扱われる。新法の制定は、医薬品のパッケ−ジ内の患者用添付文書にも変化をもたらし、薬の利益のみならず、副作用情報の記載にも影響するであろう。
医薬品産業のヨーロッパ同盟会長、Brian Agar氏は、「誰もが自分の製品について情報を提供できるのに、製薬企業ができないのは不公平である」と主張し、「情報の許容性を定める基準は、情報の質に左右されるもので、どこが情報の出所かに左右されるものではない」と述べている。
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当会議はニュージーランド政府のパブリックコメントに応じ、2006年4月28日付けでDTC広告の禁止と疾病啓発広告の規制を行う案を支持する内容のパブリック・コメントを提出した(※2)。
日本では医療用医薬品の消費者向け宣伝は薬事法上禁止されているが、肺癌治療薬イレッサで見られたように、基幹新聞の医療欄に掲載される新薬情報、専門医師の治療に関するコメントを掲載した病気関連記事などは、啓発活動や科学教育の形をまとった巧みな広告であり、情報と広告の質的区別を行うことがいかに幻想的であるかを示している。(NK)