臨床試験登録が米国で義務化される
2008-01-21
(キーワード:FDA新法、FDA再生法、FDA, 臨床試験、臨床試験登録制)
米国ではFDA(食品医薬品局)に関する新法「FDA再生法2007」(※1)が2007年9月に成立した。この背景は別項の注目情報(※2)で紹介し解説した。ニューイングランド医学雑誌2007年10月25日号の論説(※3)では、「Open Clinical Trials(臨床試験が公開に)」と題して、この新法に関し、特に臨床試験について改正の意義を述べるとともに、今後のありかたについて意見を述べている。Openには、「誰でも利用できる」「偏見のない」「隠しだてのない」などの意味もある。
論説は、新立法に大きな期待をよせるとともに、臨床試験登録制度を実りある形にするためにはこれから文章化される規則や登録用の書式が重要であることを指摘している。
論説の臨床試験登録制に関する部分の内容を以下に要約した。
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この法律で特記すべきは、臨床試験に関する事項である。すべての臨床試験(第II相試験から)はスタートに先立って、国立医学図書館(NML)の公開データベースに登録しなければならない。第I相試験が登録の対象からはずされているのは理想からかけ離れるが、新しい治療法の試験を、社会全体が共有すべき情報であるとした点では、大きな進歩である。10年前には臨床試験は、そうしようと思えば、試験提供者は所有権を主張して、それが存在することも含めてすべての情報を隠して、秘密裏におこなうことができたのである。しかし、今後は、試験提供者は、臨床試験に参加した人々は試験に貢献をしていること、また彼らはリスクを負っているということを社会に知らせる義務がある。これは倫理的な義務である。試験実施の情報と、得られた主要な結論を確実に公開することでその義務を果すことになる。
試験結果の報告については、この新立法では、先例として、公的データベースに報告することを要求している。記述の書式は、試験参加者に関する情報および最重要な評価項目の結果と、副次的な評価項目の結果のうち主なものを、表の形式で記述するようになっている。保健福祉省(HHS)の事務局は実際の規則を作成するに当たって、重大な副作用に関する報告の場合については、この書式に十分な配慮をしなければならない。書き方次第では、結果を簡単な事実の羅列にしてしまい、書式そのものが、試験結果の解釈を行うにふさわしい場所を意図的に奪ってしまいかねないからである。
今や、治験参加者が臨床試験のイニシアティブをとるときが来た。この立法によって臨床試験は市民に見える場所で行われることになるだろう。ロフェコキシブ、テリスロマイシン、ロシグリタゾンなど最近のブロックバスター(註)と言われる薬剤でおこった情報隠しは、患者と医者の両方を深刻な不安の谷間に落としいれた。
見たものすべてを公開せよ。そうすれば、臨床試験は、患者が安心して病と戦える治療法へとつながっていくのである。
註 blockbuster:「大きな影響があるもの」の意で、巨額の売り上げがある医薬品をさす
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すでに注目情報で取り上げたように(※4)、世界の主要医学雑誌とWHOは、臨床試験の登録を第I相試験から要求している。しかし新法では、著者も「理想からかけはなれるが」と記載しているが、第I相試験の登録は免除されている。企業と妥協したようであるが、第I相試験はヒトでの薬物動態や未知の毒性を検討する重要な試験である。見たものすべてを公開すべしとの観点からも、第I相試験の登録は今後の大きな課題となるであろう。 (ST)