FDAの臨床試験監視に非常に厳しい内部監査所見
2007-11-16
(キーワード: 臨床試験監視、被験者保護、FDA、保健福祉省監査長官オフィス(OIG))
「米国食品医薬品庁(FDA)の臨床試験監視には重大な欠陥がある。FDAは臨床試験を適切にモニターする手段を持たない」―このように厳しく指摘した34ページに渡る長文の報告書(※1)が、2007年9月28日に出された。
この文書、政府に批判的な市民団体が出したものではなく、FDAの上部団体である保健福祉省の保健福祉省監査長官オフィス(OIG)が、議会に提出した報告書である。
日本にも総務省の行政監察プログラムがあり、このような監査システムがないわけではないが、米国の監査システムは徹底している。監査長官(Inspector General)とは、1978年に制定された監査長官法(Inspector General Act)によって米国の各省庁に置かれた内部監査担当の役職で、公的資金の誤用、濫用、浪費を予防するために普段の監視を行っている。重要な役職なので上院の助言と同意で大統領が任命する。所属する省庁の長に直属する形がとられるとともに、所属する省庁からも一定の独立性を保持する目的で、半年に1度は
連邦議会に報告書を提出することが義務付けられている。
OIGはこれまでにも、FDAとIRB(治験審査委員会)による臨床試験監視における弱点について指摘してきている。1998年には、IRBがその対象とする臨床試験をモニターするのに十分な時間と専門家を欠き、臨床試験が開始されてから事後承認する例すらしばしばみられることを指摘した。2000年の報告書では、FDAが臨床試験を監視する上で適切なモニタリング・プログラムのガイドラインを持たず、非常に重要な被験者保護よりもデータの正確さの確保に関心を寄せていることを批判した。
今回の報告書は、2000年度-2005年度においてFDAの臨床試験監視がどの程度行われたかの明確化とともに、FDAの臨床試験監視プロセスの評価、を目標としている。
OIGは、FDAが臨床試験全体や営利団体が運営するなど規制緩和の進むIRBについてもその全体像を把握していない実情にあるので、正確な数字は明確ではないものの、FDAが2000-2005年度に査察した臨床試験実施施設は1%以下、被験者保護の要となるIRBについても年度単位では約6%、6年間ではすべてのIRBの40%以下しか査察していないと推定している。
OIGは、FDAがすべての臨床試験を把握するために臨床試験登録データベースを整備すること、現在は全く欠いているIRB登録制度を新設すること、臨床試験を監視するFDAの権限を強めることなど5項目の勧告を行っており、5項目中4項目についてはすでにFDAの同意を得ていると、この議会への報告書に記載している。
OIG報告書について報道したニューヨーク・タイムズ紙2007年9月28日号(※2)で、ペンシルベニア大学医療倫理学主任教授のアーサー・カプラン氏は「米国では、研究対象としてラットやマウスの方がヒトよりも大事にされている」とコメントしている。
日本では、「治験のあり方に関する検討会」が、「被験者の保護および治験の信頼性確保を前提として、より円滑に治験を実施するための方策について検討することを目的」に2005年3月設置され、検討されている。2007年9月19日には、IRBについてその情報公開を進めるとともに、IRBの設置範囲については医療機関を有する国立大学法人、地方独立行政法人(公立大学法人)および学校法人と、医療の提供などを主な業務とする独立行政法人などに拡大し、治験実施施設がIRBを選択できるようにする、などの内容の報告書をまとめている(※3、上記記載内容についてはその後パブリックコメント実施、※4)。
規制緩和が進む米国の実情をよく伝える今回のOIG報告書の内容は、日本での被験者保護、治験の信頼性確保を進める上で、参考とすべき情報である。 (T)