注目情報

  1. ホーム
  2. 注目情報

ランダム化比較臨床試験の早期打ち切りが増加しているが

2007-10-17

(キーワード: ランダム化比較臨床試験の早期中止、倫理的問題、被験薬の過大評価、揺らぐ臨床試験の信頼性)

 ランダム化比較臨床試験の中間解析で、被験薬がプラセボ(偽薬)を含む対照薬に大きく勝ることが判明し、これ以上試験を続行するのは対照薬に割り付けられた患者が不利をこうむり倫理的でないとして、試験が途中で打切られる例が増加している。
 この早期打切りは、適切に行われないと被験薬の効果が過大に評価され、一方では害作用の情報が十分に得られない。中断された試験結果を報告した論文は社会的には注目を浴びる。そして、殆どその1試験の結果のみを根拠として、その被験薬が販売承認されることも少なくない。しかし、過大評価は、ひいては販売されたその被験薬を処方される数多くの患者に、逆に不利益をもたらす。
 ここでは、(1)早期中止されたランダム化比較臨床試験の論文の質的な評価を系統的に行ったJAMA誌に2005年11月に掲載された論文(※1)と、(2)早期中止はしばしば逆に非倫理的であり限定された条件下でのみ正当化されることを論じた、最近(2007年6月)の米国内科学会が発行する内科学紀要誌に掲載された論文(※2)について、それぞれの要旨を紹介する。


(1) 利益のため早期に中止されたランダム化試験 系統的レビュー、JAMA誌2005年11月2日号 (※1)

 メドラインなどの文献データベースから、2004年11月までに介入(被験薬の投与などの医学的介入)の効果が明らかとして試験中止されたランダム化臨床試験143件が得られた。この143件の64%が5つの影響力の大きいトップジャーナルに論文が掲載されていた。概してこれらは製薬企業の資金による医薬品の臨床試験で、循環器、がん、エイズ治療剤についてのものであった。有力5誌に掲載されたこれら早期に中止されたランダム化試験の、全部のランダム化試験に占める割合は、1990-1994年には0.5%であったのが、2000-2004年には1.2%と2倍以上に増えていた。
 これらの臨床試験が、効果が明らかとして中止されたのは、試験開始後かなり早い時期であった。平均して、計画された被験者数の63%が登録された時点、開始後13か月(中央値)の時点、そして1回目の中間解析の時点で試験が中止されていた。
 臨床試験で被験薬の投与など医学的介入の効果を評価する指標をエンドポイントといい、例えば心筋梗塞の発症やそれによる死亡の抑制を期待する薬剤であれば、心筋梗塞、突然死などのハードエンドポイントといわれる指標や、狭心症や冠動脈血行再建術などのエンドポイントがある。何を指標とするかは試験の計画段階であらかじめ決められる。計画された試験の被験者数は400人(平均値)であったが、早期中止の時点で、その中止の原因となったエンドポイントを実際に経験していた患者は66人にすぎなかった。
 中止された試験の69%にデータ・安全性監視委員会が存在したが、委員会の構成について記載していたのはさらにその69%に過ぎなかった。中止された試験の86%で委員会が試験中止を勧告していた。中間解析の予定回数が記載されていたのは64%のみであった。
 中止された143件のうち、試験中止の決定に非常に重要な要点である「計画された被験者数、試験中止の決定に至った中間解析、中止の決定を知らせるルール、中間解析と早期中止のための調整済み推定値」の4点のすべてを記載していたのは、わずか8件のみであった。
 さらに重要なことは、推定された被験薬の治療効果は、患者が経験したエンドポイント(効果を評価する指標)の件数が少ない試験ほど大きく、経験したエンドポイントの件数が大きいほど被験薬の効果は低くなっていたことである。このことは経験したエンドポイントの数が少ない時点で中止すると、被験薬の効果が過大評価される危険性を示している。

 このように、明らかな利益が得られたとして臨床試験を早期に中止させる例が増加しており、早期承認につながるなどその与えるインパクトは大きいが、論文を検討すると必要な情報が適切に記載されていなく、とりわけエンドポイント(効果を評価する指標)数が少ない場合に効果が過大に評価されていることが判明した。
 臨床医はこれらの論文に批判的に臨む必要がある。

(2) 明らかな利益を理由に早期に中止されたランダム化臨床試験における倫理的問題、内科学紀要誌2007年6月19日号 (※2)

 ランダム化臨床試験の早期中止が、ますますありふれたことになってきている。プラセボないし他の治療群に割り付けられた被験者を保護するためにという大義名分は、研究者に試験を早期に打切らねばならないという思いを余儀なくさせる。早期中止がもたらす試験成績の学会や論文での発表の強いインパクトに期待するなどの、さまざまな世俗的な動機も試験の早期中止を後押しするかもしれない。しかし、そうすることには多くの倫理上の問題が存在する。早期中止は被験薬の効果など医学的介入の過大評価を体系的に生み出す。試験中止時点で患者が実際に経験したエンドポイント(効果の指標)の数が少ないと、過大評価は非常に大きいものとなる。重大な過大評価が発生することは、科学的に正当化される研究倫理に違反する。過大評価の結果が、臨床的な意思決定や治療ガイドラインに反映されれば、社会的倫理と好ましいリスク効果比に違反することになる。
 研究者は、試験中止の前に患者が実際に経験したエンドポイント(効果の指標)の数が十分大きいかを確認し、またすぐに中止に走るのでなく被験薬にポジティブな傾向が持続するかを見るなど、試験の早期中止には慎重でなければならない。そのことが被験者保護の必要性と、科学的正当性、社会的価値、好ましいリスク効果比とのバランスをとる上で欠かせないことである。   (T)