注目情報

  1. ホーム
  2. 注目情報

医学雑誌編集者国際委員会(ICMJE)が臨床試験登録制を改訂

2007-10-17

(キーワード:臨床試験登録制、医学雑誌国際編集者委員会、ICMJE、WHO, UMIN、プライマリー登録サイト、パートナー登録サイト)

 医学雑誌編集者国際委員会(ICMJE)は世界の主要な医学雑誌の編集者の集まりである。この委員会が臨床試験の結果を医学雑誌に掲載する際に今までなかった条件をつける方針を打ち出し、スタートさせたのは2005年7月である(※1、※2)。研究者に対して、臨床試験を開始する前にあらかじめ試験計画を非営利組織で運営される登録機関に登録しておくことを要求したものである註1)。この委員会では、スタート時から2年後の2007年には、このシステムの見直しを約束していたが、新たな方針をAnnals of Internal Medicine 2007年8月21日号に「臨床試験登録制:これまでと今後」と題して発表した(※3)。現状の評価と、今後について(1)登録機関についてどうするか(2)登録を要する臨床試験の種類は現状でよいか(3)試験結果の登録はどうするか、である。
 ICMJEの打ち出した2005年の方針に呼応するように、WHO(世界保健機関)も臨床試験の登録制度の検討を行ってきたが、すでに2007年5月4日には、「臨床試験登録ネットワーク」を立ち上げ、「検索ポータル」が稼動開始している註2)。
このことは、この制度への認識が世界レベルで研究者間に広がっていること示すものと思われる。以下に、ICMJEの「臨床試験登録:これまでと今後」を要約した。
 なお当会議は2005年3月に、臨床試験登録制度の創設と臨床試験データの公表を求める要望書を厚生労働省と日本製薬工業協会に提出している(※4)。

________________________________

この方針を発表した当初は12の医学雑誌で臨床試験登録制をスタートさせ
た。研究者間には懸念や不安があったが現在はかなり定着して、他誌もこの方針を採用するようになってきた。この方針を採用した雑誌は雑誌そのものの評価点が上がってきている。方針を出す以前の、当時の最大登録機関であるClinical Trial.Govへの登録数は13153件であったが、スタート1ヶ月でこの数は22714件となった。今後に向けて、次の三点を改訂した。

 (1)現在当編集者委員会が論文の受理の際に認めている5つの登録機関註3)に加えて、WHOの運営している「国際臨床試験登録プラットホーム(ICTRP)」に認定されている「プライマリー登録サイト」に登録された臨床試験についても論文を受理することとする。ただし、WHOの分類による「パートナー登録サイト」のみへの登録だけでは受理できない。「パートナー登録サイト」は、ある限られた領域の試験(例えば、ある疾病、ある企業、ある研究機関、地域的な制限など)にかぎって受け付けているような登録機関を指すが、このような機関あるいはサイトは、営利目的の母体が管理している場合が多々あるからである。
 
この改訂に際して、研究者や政府関連機関などから、データベースとして登録を受け付けている限られた領域の登録のみの登録機関をも認めて欲しいとの要望がだされていたが、幸いなことに、WHOの「国際臨床試験登録プラットホーム」が急速に整備され、幅広い登録サイトを希望する彼らにオプション(選択肢)として「パートナー登録サイト」があるので、上記のように決めた。当編集者委員会では、臨床試験に関する情報を検索する人々のために、一回で情報にたどり着けるような秩序づくりに努力しているWHOを強力にサポートしたい。

 (2)当編集者委員会では当初、第1相試験は予備的な試験であるとして登録から除外していたが、臨床試験のうちでも第1相試験は、薬物動態や未知の毒性を検討するための試験でありこの情報を公開することはその有益性が大きいことを認識するにいたった。従って、登録すべき臨床試験の定義をWHOの定義に準拠することとした。WHOの臨床試験の定義は「健康に及ぼす効果を評価するために、個人叉はグループに対して、健康に関連した介入を将来割り当てようとするすべての研究」である。論文を受理する際のWHOの定義の適用は、2008年1月以降に患者登録を開始する試験になる。

 (3)臨床試験計画を登録することは、かなり一般的になってきた一方で、臨床試験の結果を登録する必要性が主張されはじめている。当委員会の認識では、試験結果の登録の環境がここ数年で激変すると思われる。試験結果の要旨に関するガイドラインがCONSORT註4)グループによって検討され出される予定になっており、当編集者委員会にとってはこのフォーマット(形式)を使ってもらうのが良い。当分の間、当編集者委員会では論文の受理の際に、同じ臨床試験登録に付された前回の試験結果は考慮に入れないつもりである註5)。

----------------------------------------------------------------
 ICMJEにより出された本論説とWHOの動きを見ると、試験結果の要旨の登録が視野に入ってきたようである。結果の公表は、試験への参加者に対する研究者の倫理的な責任でもある。試験結果の公表が、臨床試験を実施する側への利益になるようなものではなく、第三者にとって有益であるような形で実現してほしいものである。「試験結果の公表」の登録が早急に整備されることを期待したい註5)。
 日本の状況については、大学病院医療情報ネットワーク研究センター(UMIN)のウエブサイトに詳細が書かれている(※6)。それによると、UMIN臨床試験登録システム(UMIN-CTR)が2005年6月日本で初めての登録システムとしてスタート、続いて日本医薬情報センター(JAPIC)が、主に製薬企業の実施する臨床試験を対象に臨床試験登録システム(JapicCTI)を稼動、また、日本医師会は、2006年から、主に医師主導型治験を対象にスタート、とのことである。UMIN-CTRが、WHOの「プライマリー登録サイト」の認可を得るのも近いものと思われる註6)。
 


註1)この背景には、抗うつ薬SSRIの服用による自殺企図が、実際は臨床試験で報告されていたにもかかわらず隠蔽されていたことが明らかになったことがある。行われた臨床試験のすべてが公表されていたわけではなかったのである。行われた臨床試験のうちで、新しい薬が今ある薬に比べ優れていなかったり副作用が大きいなどのネガティブな結果が公表されずに、優れていることを示すポジティブな結果のみ公表されていたとすると、科学そのものに、バイアスがかかってしまう(出版バイアス)。結果として、その新薬の有効性は過大評価されることになる。臨床試験を公開することは、試験への参加者に対する研究者の倫理的な責任でもある。

註2)WHOの「国際臨床試験登録プラットホーム(International Clinical Trials Registry Platform (ICTRP))」のウェブサイト(※5)では以下の項目を見ることが出来る。

*Why register trials?(臨床試験を登録制にする理由)
*International Search Portal(国際検索サイト)
*Register network(臨床試験登録ネットワーク)
*Universal Trial Reference Number(共通臨床試験ナンバー)
*Results reporting(臨床試験結果の報告はどうするか)


**Register network(臨床試験登録ネットワーク)をクリックすると、おおまかな仕組みが判るようになっている。「プライマリー登録サイト」として認定されるためにはWHOが決めた要件、たとえば非営利組織による運営など12項目があることがわかる。「プライマリー登録サイト」はデータを直接に、中央集積所(WHO?)に提供できる登録機関。かたや「パートナー登録サイト」は、通常は「プライマリー登録サイト」を通して、中央集積所に間接的にデーターを提供する登録機関。
**「International Search Portal(国際検索サイト)」をクリックして、例えば検索ボックスに「SSRI」を入れれば、現在登録されているあるいは進行中のSSRIに関連した臨床試験が出てくる。

註3)日本の「大学病院医療情報ネットワーク研究センター(University hospital Medical Information Network Center、略してUMIN)」が運営するUMIN臨床試験登録システム(UMIN-CRT)(※6)も含まれる。

註4)Consolidated Standards for the Reporting of Trials(試験報告統合基準)
 臨床試験報告の記述基準を述べたガイドラインで、多くの著名医学雑誌が採用している。

註5)WHOのICTRPには、Results reporting(臨床試験結果の報告はどうするか)の項があり、次の説明がある。
  臨床試験を登録したならば、データに対する責任と透明性確保のために、時宜を得た方法で、すべての結果が公表されなければならない。現時点では、「結果の報告」について国際的な基準や公式な合意はない。そこで、ICTRPではこれに関する「研究グループ」を作った。

註6)WHOのICTRPサイトには、UMINは「基準に適合しているかどうか検討中の登録機関」との記載がある(2007.9.6検索)。     (Sa)