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FDAはケテックを承認すべきではなかった

2007-09-11

(キーワード;ケテック、データのねつ造、非劣性試験、規則違反)

ケテック(テリスロマイシン)は、耐性菌が出にくい新しい分類の抗生剤であるとして、耐性菌による二次感染などが問題となる呼吸器感染症治療を目的に承認された(ドイツ2001年10月、日本2003年10月、米国2004年4月)。パブリックシティズンは、その有効性に対する疑問と重篤な肝障害を起こす危険性を指摘し、ケテックを承認すべきでないと早くから取り組んできている。日本では、服用後の意識消失による自動車事故が報告され、販売量が減少した経緯のある薬剤である。
FDA(米食品医薬品局)がケテックを承認して以降に、数十例もの重症の肝障害が起き、連続的に緊急安全性警告を出したことで、米国両院議会での、FDAのケテック承認にかかわる2つの問題−安全性に関するデータの不正と、不適切な試験方法に基づいて審査を行った−の追及に火を付けた。FDAは、2007年2月12日、議会公聴会の一日前にケテックの2つの効能(急性増悪慢性気管支炎、急性細菌性副鼻腔炎)の取り消しを発表したが、このケテックの承認をめぐる真相について、前FDA医系審査官ディビッド・ロス氏の記事と、この記事に対するFDAの釈明が、ニューイングランド医学雑誌(NEJM)2007年4月19日号に発表された。ロス氏の記事から、議会が問題にしているケテック承認の真相と、FDAの対応について、要旨を以下に紹介する。
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−ケテック承認の真相−
ケテックの安全性については、第1回審査で多剤との相互作用、視力に対する特異的影響、肝毒性の問題が判明したため、FDAはサノフィ・アベンティス社(以下サ社)に、実患者を被験者とした安全性試験の追加実施(3014試験)と、海外の市販後調査データの提出を命じた。3014試験は登録患者1人につき400$(47500円)が支払われ、1800人の医師により24000人の患者が登録された。わずか5ヶ月で試験は完了し「ケテックは比較対照薬と同様に安全である」との結論が出されたが、最多の400以上の患者を登録した医師が、架空のデータを捏造していたことが、FDAの定期査察により発覚(その医師は57ヶ月の禁固刑が宣告された)し、さらに重大な試験実施違反が多数あった。加えて、重要な承認審査で、信頼性の低い海外の市販後調査データを用いたのは極めて異例であった。
有効性の証拠もない。1990年代には、抗菌薬の開発において「非劣性試験」が標準
的とされていた。しかしその後、FDAの諮問委員会などでこの「非劣性試験」の問題点が指摘されるようになり、2004年までには、慢性気管支炎の急性増悪や急性細菌性副鼻腔炎のような自然治癒が期待される呼吸器感染症治療薬開発の分野においては、「非劣性試験」を用いることは妥当ではないとされた。にもかかわらず、FDAはその「非劣性試験」結果に基づいてケテックを承認したのである.ケテックの治験として「非劣性試験」を実施することは、「非劣性試験」の問題点が指摘される以前からの、FDAとサ社との合意だったから、というのがその理由である。
−安全性確保の対応の遅れ−
ケテックが市場に出て7ヶ月後の2004年9月に最初の死亡例が報告されたが、FDAは問題視しなかった。2006年1月にFDA上級管理者は、緊急電子レポートで3死亡例の報告(最初の死亡例を含む)を知ったが、「ケテックは安全である」と公式発表した。こうして、最初の肝不全死亡例の報告から16ヶ月後まで、重篤な肝臓毒性についての改訂の指示を出さなかったその間に、ケテックによる23例の急性重症肝障害と12例の急性肝不全、うち4例死亡を含む53例もの肝毒性例が報告された。FDAは米国議会の追及を受けてやっと、公聴会のわずか1日前に2つの効能(急性増悪慢性気管支炎、急性細菌性副鼻腔炎−ケテックが決して効果を現すことのなかった)の削除を発表したのである。議会の追及を機に、変質したFDA内部の改革が進められることを期待している。
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日本では、サ社が「米国におけるケテック(テリスロマイシン)錠添付文書改訂に関するお知らせ」として、FDAの決定を知らせる文書をいち早く医療機関向けに配布(2007年2月)し、その中で、「日本国内では直近の改訂(2006年8月)以降安全性に関する新たな知見はなく…(略)…承認されたすべての効能に対して、安全かつ有効な手段であると考えている」とコメントした。日本の適応症は咽頭・喉頭炎、扁桃炎、急性気管支炎、慢性呼吸器病変の二次感染、副鼻腔炎、歯周組織炎、歯冠組織炎、歯冠周囲炎、顎炎(適応菌種省略)であり、2効能が削除される前の米国の適応よりもさらに広い。添付文書の改訂内容にとどまらず、承認の根拠こそが問われるべきだろう。厚労省は、ようやく8月2日に医薬品安全対策部会安全対策調査会を開催し、「意識消失、肝炎等の重大な副作用があるので、他の抗菌剤が使用できないか、無効な場合にのみ適用を考慮すること」との警告新設を指示し、適用を最終選択薬にまで限定する安全対策強化の措置を行った。
FDAは、ロス氏記事に対する釈明記事の中で「ケテックの新薬承認申請が提出された時点では、非劣性試験は承認根拠として妥当と判断されていた.しかしその後、非劣性試験の問題点について検討し、今日では、ケテックで承認されなかった2つの効能のような場合には、非劣性試験は妥当ではないという結論に達している.FDAは、最近の承認においては、この立場をとっている.」と述べている.
この「非劣性試験」に関連したことであるが、日本では、イレッサは「承認条件」として市販後に実施した「非劣性試験」にも失敗したのに、今なお販売され続けているのである。(N)