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リリー社が寄付金(研究機関や患者団体などへの)を全公開

2007-08-29

(キーワード: イ−ライ・リリー社、寄付金の公開、情報公開、医師生涯教育プログラム)

 スクリップ誌2007年5月(9.11日合併)号によると巨大製薬企業のイーライ・リリー社が米国内におけるすべての寄付金を情報公開すると報じている。リリー社といえば、SSRIとよばれる抗うつ薬プロザックを市場に出し、その後の抗うつ薬の流れをつくった会社である。プロザックの特許が切れると、この薬の新しい適応症「月経前不快気分症候群」を“開発”し「サラフェム」と名前を変えて承認をとったために、“病気づくり(メディカリゼーション)”にも熱心であるとの批判もある。しかし、アメリカで寄付金の提供先とその金額を全面公開したのはリリー社が始めてで、4半期ごとに公開するとのことである(※1)。残念ながら、この公開は米国内のものに止まるが、今後の行方を注目したい。
製薬会社からの寄付金は、日本でも深刻な利益相反を引き起こしており、当会議でもすでに多くの問題点を指摘してきた(※2)。最近では、タミフルの副作用を検討する厚生労働省研究班の教授が、タミフルを販売する企業から奨学寄付金と称する寄付を受けていた事が明らかにされ、結果判定への影響が懸念されたばかりである。寄付金の公開によって、資金がどのように使用されているか一般の人々に監視が可能になれば、受領者側も提供者側も寄付金に対するモラルは改善されるであろう。
以下は、記事の要旨である。

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 リリー社によれば、現在は米国内にかぎっているが、この公開は世界に広げる計画である、しかし外国では法律や規制法などに抵触し公開できないかもしれないと言う。
 今年1-3月の4半期は1180万ドル(約14億円)が提供されたが、この内訳をみると90%は、「医師生涯教育プログラム(CME)[註1]に提供されている。
ひとつのプログラムに与えられた最高額はマサチュセッツ綜合病院で82.5万ドル(約10億円)(この「医師生涯教育プログラム」には年間15万人が参加する)。Pri-Med研究所(※3)に90万ドル(約1億円)(「診療ニュース」ほか二つのプログラムに)。プログラム「i3CME」に 20万ドル(約2.4千万円) (このプログラムは「臨床論争…もっと有効な抗精神病薬は」と題しているが、リリ−社のトップセールス品は抗精神病薬のオランザピンである)。患者の支援団体である全米精神疾患同盟に54.45万ドル(約6.5千万円)。米国医学会のうつ病関連のサイトの支援に24.9万ドル(約3千万円)。米国臨床腫瘍学会に17.5万ドル(約2.1千万円)(リリー社は抗癌剤ジェムザールを販売)。米国がん研究協会に11万ドル(約1.3千万円)。

リリー社は、この寄付金は、医学部や学会などの組織が医師教育の使命を達成するためのサポートであり、販路確保の目的ではないと言うが、一方では製薬会社からのこういった寄付金は処方行為に大きな影響力を持つとの批判がある。
「医師生涯教育プログラム」を認証する組織である「生涯教育認定機構(ACCME)」は、批判を受け続けている。下院財務委員会は「医師生涯教育プログラム(CME)」の監視の強化の必要性を指摘し、また民主、共和両党の調査では「生涯教育認定機構(ACCME)」によるプログラムの審査に大きな問題があると指摘している。たとえば、審査書類にプログラムの活動実態が書かれていない場合もある上、正確に教育活動が行われているか、その公正さが保たれているか、などの分析をしていない。また、教育プログラムの中でスポンサー企業の薬が優先的に取り上げられている場合がどの程度あるのかについても追跡していない。
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 製薬企業による情報提供や教育の弊害について、元ニューイングランド医学雑誌編集長のマーシャ・エンジェル氏は「教育講演が、製薬企業の資金でまかなわれるとき、医師は講演を聞いたあとでスポンサー会社の薬を多く処方するようになることが分かっている」と述べている[註2]。                               (Sa)

 註1.「医師生涯教育プログラム」(Continuing Medical ducation : CME):
全米のほとんどの州で医師が免許を持ち続けるためには、継続的に生涯教育を受けることが義務付けられている。この教育プログラムを、「医師生涯教育プログラム」という。このプログラムを提供するのは、医学部、病院、学会などの組織のほかに、民間の医学教育コミュニケーション会社などがあるが、「生涯教育認定機構」(Accrediting body of CME: ACCME)という専門機関の認証を受ける必要がある。
註2.マーシャ・エンジェル著「ビッグ・ファ−マ」(篠原出版新社:2005)