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どの医薬品費に公的支出をするかを評価する英国NICE、ドイツIQWIGに対する攻撃と擁護

2007-04-20

(キーワード: 医薬品費公的支出の必要性評価、NICE、IQWIG、米国政府、製薬企業、専門家)

 日本では、避妊薬やバイアグラなどごく一部の薬剤を例外として、販売承認された医療用医薬品はすべて保険薬薬価基準に収載されて公的支出の対象となっているが、これは世界の中では今やかなり特殊な例である。各国では、市場導入が許可されたからといって、その医薬品が社会的なヘルスケア・システムの対象とはならず、対象とするのがふさわしいかどうかが検討されている。

 従来は、主に臨床的な効果についての検討であったが、最近では保険財政の緊迫化などの事情を反映して、それぞれの医薬品の公的支出について、かけた費用と得られる効果の関係(費用対効果)に注目し、限られた予算の中で必要な医薬品を効果的に国民に供給しようとする動きが強まっている。最近でも隣国の韓国政府が費用対効果に着目したポジティブリスト(保険適用を行う医薬品のリスト)作成の方針を打ち出したのに対し、製薬企業が強く反対し、また米国政府も新薬の輸入使用に対する非関税障壁となり自由貿易協定(FTA)に反する動きとしてこれに反発するなどが伝えられている(※1)。

 この費用対効果を検討する政府系機関として代表的なものに、英国のNICE(National
Institute for Health and Clinical Excellence、英国医療技術評価機構、※2)とドイツのIQWIG(Institut für Qualität und Wirtschaftlichkeit im Gesundheitswesen、保健衛生制度における質と経済性に関する研究所)がある。

 英国のNICEは、1999年の創立で同国の国民医療サービス(NHS)で使用する医薬品などの評価を進めている。最近エーザイのアリセプトなどの認知症治療剤に対し、価格が高いが効果は限られたものでしかないとして使用を厳しく制限したことで大きな波紋を投げかけた。ドイツのIQWIGは、2004年の設立で同国の保健衛生制度で用いる医薬品などについて評価を進めている。

これらに対する製薬企業や米国政府の反発、擁護する医療専門家の動きを英国医学雑誌BMJが伝えている(BMJ333,1087,2006)。以下は記事の要旨である。

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 [専門家が米国政治家からの攻撃に対しNICEを擁護する]
 製薬企業は、彼らの製品がNHSで迅速に用いられるようになるよう、常にロビー活動を展開している。ホワイトハウス(米国政府)は、自由貿易の一部として医薬品のNHSへのアクセスを制限すべきでないという大製薬企業のキャンペーンへの支持を表明した。ロンドンに駐在する米国政府代表のアレックス・アザール氏はガーディアン紙で、医薬品の消費を制限するNICEのシステムが、製薬企業の新薬開発の意欲を阻害すると述べた。アザール氏はDTC(医療用医薬品の患者・市民への直接広告)についても、米国同様英国でも解禁すべきと語った。

 これに対し、チャールス・メダワー氏(消費者団体ソーシャル・オーディット代表)、クリス・ハム氏(バーミンガム大学医療政策教授)、アイク・イヘアナチョー氏(医薬情報誌DTB編集長)らが、NICEを擁護した発言をしている。イヘアナチョー氏は、個別の医薬品についてはその評価が分かれることがあっても、医薬品を評価してNHSでの使用の是非を決めるというプロセスは大多数の識者が一致して支持していると語っている。

 [ドイツの医薬品規制当局が攻撃を受けている]
 ドイツでも新薬を評価するIQWIGが、英国でのNICEのように同様の攻撃を受けている。コロンにおいて開催された即効性インスリン類似体についての公聴会で、製薬企業の代表が、公聴会の録音を許されなかったとして退席し、IQWIGの情報公開が不十分であるとして批判している。

 ドイツ政府がIQWIGの役割について、新薬の「効果」(臨床的効果)ばかりでなく、新薬の「費用対効果」についても評価するという方針を出したことで、政府と製薬企業・患者団体との緊張が高まった。IQWIGが提案したエビデンス(科学的証拠)に基づく評価は、連邦レベルの医師、健康保険会社、患者代表などからなる委員会での決定の基礎となっている。IQWIG研究所長のサビッキ教授は、新薬の科学的なエビデンスに注目するとともに、費用対効果での評価を行うことは国際的に認められたものであると語っている。  (T)