米国で特設された「医薬品安全性監視委員会」は機能していない
2006-05-17
(キーワード: 米国、医薬品安全性監視委員会、独立性、情報公開、企業秘密)
非ステロイド性抗炎症剤ロフェコキシブ(バイオックス)による大規模な薬害を防げなかったのかなど、米国FDA(食品医薬品局)の医薬品監視に対する市民の批判の高まりのなかで、昨年「医薬品安全性監視委員会」が創設されてから、ちょうど1年になる。ネーチャー・メディスン誌2006年3月号が、「発足から1年、医薬品安全性監視委員会は失敗していると指摘される」の記事を掲載している。ここで問題とされている独立性、透明性については、同委員会が発足した時点ですでに危惧されていた。この危惧が現実のものとなった訳である。以下は同誌の記事の要約である。ここで指摘されている問題は、日本で今後、医薬品安全性監視という重要な課題を考える上で教訓となるだろう。
2006年2月に、FDA諮問委員会の複数のメンバーが、FDAの新医薬品安全
性監視委員会は、FDAにおける情報公開と透明性を増加させるという表明さ
れていた目標に失敗していると語った。
ちょうど1年前にFDAは、安全性問題が生じはじめた時にすばやく警告を
発するなどの、当局による医薬品安全性管理の改善のために、新たな委員会
を設置すると高らかに告げた。鎮痛剤バイオックスが18か月間の使用で脳卒
中と心臓発作のリスクを2倍にすることが判明し、メルク社が同薬剤の回収
を行ってから5か月後のことであった。
委員会の設置は一つには、市民の間にFDAは医薬品安全性確保において手
ぬるいのでないかとの感情の広がりに対応したものであった。当時、保健
社会福祉省のマイク・リービット長官は、「独立した」委員会の設置を、
FDAにおける新たな「開かれた文化」のさきがけとして、大いに歓迎して
いた。
しかし、2月10日、委員会の現時点でのはかどり具合についての聴聞会の
後、諮問委員会はこれとは非常に異なる証言をした。諮問委員会の座長で
ニュージャージーのハッケンサック大学医学センター内科学主任教授のピ
ーター・グロス氏は、「あなた方はこの監視委員会での失敗を機能しうる状
況にしなければならない。委員会はいつも非公開でもたれており、市民の
代表は参加していない。委員のすべてが政府の恩恵を受けている人たちで
ある。監視の過程をもっと透明性を高めたものにしなければならない」と
指摘した。
監視委員会で投票権のある委員は15人いるが、13人はFDAの上級科学マ
ネジャーであり、他の2人は国立衛生研究所と退役軍人庁のスタッフ医師
である。委員会は1か月か2か月に1回非公開でもたれている。委員会は、
1年前に約束したのにかかわらず、患者・市民向けの「ドラッグウォッチ」
と呼ぶウェブサイトを、まだ開設していない。
諮問委員会委員で、ニューヨークにある医療消費者センターを管理してい
るアーサー・レビン氏は、「監視」委員会は独立性をもち、医薬品安全性問
題で当局が犯した誤りを客観的に評価できる権力を持つべきだと語った。そ
して、そうした委員会のモデルとして、航空機の衝突事故の原因を決定す
るために組織された国立運輸安全性委員会をあげた。
FDAの上級科学マネジャーたちは、委員会の非公開を守るのに走り勝ちで
ある。彼らは「委員会でのディスカッションは企業の機密情報を含み、わ
れわれにはそれらを守る義務が法律で定められている」と主張している。
FDA新薬局のサンドラ・クェーダー副局長は、「FDAは情報の秘匿を望んで
いるのではない」と語る。彼女は、「監視委員会は医薬品安全性の外部モニ
ター(監視者)ではなく、FDAスタッフの日常業務に対するサプリメント(補
完する存在)であると考えるべきだ」と付け加えた。
(T)
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