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CMAJ(カナダ医師会雑誌)の編集者が編集の自由を求めている最中に解雇される

2006-04-10

(キーワード:CMAJ(カナダ医師会雑誌)、編集者の解雇、編集の自由)

 CMAJ(カナダ医師会雑誌)は、JAMA(米国医師会雑誌)や英国医師会が発行するBMJとも並ぶ名声ある医学雑誌であり、医学誌編集者国際委員会(ICMJE)加盟の中心的な雑誌のひとつである。1911年に創刊され、この10年あまりの編集者たちの努力で、国際的に非常に評価の高い雑誌となり、隔週刊で7万部を発行している。この発行数はカナダ医師会員の85%に相当する。同誌に投稿されるオリジナル論文は月に100編を超えており、その中から厳選した論文が掲載されている。同誌掲載の論文が他誌から引用される回数を示すインパクト・ファクターもこの何年かで3倍の5.9となっている。このような目覚しい発展には、ジョン・ヘイ編集長をはじめとする編集委員会のここ10年間の貢献が大きい。同誌は、編集委員会が、医学や保健での論議のある重要なトピックス(話題)にも、たじろぐことなく正面から取り組み、論評してきた。例えば、マリファナ(大麻)解禁、ケベックでの緊急部門夜間人員配置、妊娠中絶、メディケァ(高齢者医療保障制度)、緊急避妊薬、医療への株式会社参入、編集の独立性の各問題である。

 しかし、医療に市場原理を導入しようとするグローバル化(米国先導の国際化)の波や、医療改革を掲げる保守党の選挙勝利などの中で、カナダのこれまでの医療・保健の公的・社会保障的な仕組みを変え、医師に高収入をもたらす医療改革(自由化)を支持する医師会員が増加し、カナダ医師会が大きく揺れている。そしてこれに伴いCMAJの発行者と編集委員会とのきしみも増し、ここ何年かは両者の対立がよく知られるものとなっていた。

 例えば、2002年ケベック州のER(救急外来室)に深夜搬入された心筋梗塞の男性が、治療を受けられず搬送中に死亡した事件で、CMAJ誌はERスタッフ配置の不十分さを指摘する論説を掲載したが、ケベックの医師たちがこれに反発し、カナダ医師会長は論説の撤回を求めた。これに対し編集委員会は、医学誌編集者国際委員会(ICMJE)ガイドラインを逸脱する編集介入として警告していた。2005年11月、CMAJ誌は最近薬局で販売されるようになった緊急避妊薬を、レポーターが客を装って薬局を訪れ調査した結果、薬剤師が必要のない個人情報を女性に求めているという記事を掲載しようとした。これに対し、調査方法などを不満とする薬剤師会が医師会に掲載しないよう訴え、上司であるグラハム・モリス医師会メディア部門長がジョン・ヘイ編集長に掲載しないよう要求し、混乱の末改訂記事が掲載された。また、同誌のウェブサイトに一度掲載された保守党新内閣のトニー・クレメンツ保健相に関する批判的分析を含む論説が、賞賛する内容のものに置き換えられる事件などあり、編集委員会は編集の独立性を強く求めていた。

 そして、今回2月20日に出版社側が編集委員会の中心メンバーであるジョン・ヘイ編集長とアン・マリー・トッドキル上級副編集長の2人を解雇する挙に出たことが、ランセット誌2006年3月4日号、BMJ2006年3月1日号で、政治的商業的な不当な干渉として取り上げられている。また、ニューイングランド医学雑誌(NEJM)2006年3月30日号も「
政治と独立性―CMAJ(カナダ医師会雑誌)の崩壊」のタイトルで詳しくレポートしている。

出版社側のCMAJホールディング社とカナダ医師会は、「紙面を刷新するため」に行ったもので、編集の独立性とは関係ないと表明している。2人の解雇は、編集委員会および「出版社やオーナーからの不当な干渉から雑誌を守る」ために作られていた監視委員会に全く相談なく、一方的に通達された。BMJ2006年3月18日号によれば、編集委員会はICMJEガイドラインに反するとこれに抗議し、15人の編集委員が辞意を表明した。監視委員会のラリー・エーリッヒ委員長も辞任した。NEJM)2006年3月30日号によれば、オタワ大学の教授が著者、査読者、広告主たちに同誌のボイコットを呼びかけている。編集委員会の記者発表や主張についてはCMAJのウェブサイトに掲載されている(※1)。
                                (T)

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