アンギオテンシン受容体阻害剤(ARB)に心筋梗塞のリスク
2005-01-31
アンギオテンシン受容体阻害剤(ARB)に心筋梗塞のリスク
(キーワード: 降圧剤、ARB(アンギオテンシン受容体阻害剤)、心筋梗塞有害
副作用、BMJ誌最近号論説)
日本の血圧降下剤市場は、ここ数年アンギオテンシン受容体阻害剤(ARB)製剤が、
激しい販売促進のもとに急成長し、カルシウム拮抗剤を上回る勢いです。
薬事ハンドブック2003年予想: プロプレス900億、ディオパン590億、
ニューロタン510億。なおカルシウム拮抗剤ノルバスク1020億円、ア
ムロジン435億円、アダラート325億円
英国医師会が発行するBMJ誌2004年11月27日号(329,1248- 1249)に「ARB(アンギ
オテンシン受容体阻害剤)と心筋梗塞ーこれらの薬剤は心筋梗塞を増加させる恐れ
があり、患者にはそのことを伝えておく必要がある」と題する論説(editorial)が
掲載されています(※1)。筆者は、カナダ・トロント総合病院・心臓外科のSubodh
Verma氏とカナダ・ノースヨーク総合病院・心臓科のMarty Strauss氏です。インタ
ーネット上のこの論説には、早速28ものラピッド・レスポンスがつく(1月5日現在)
という、大反響を呼んでいます(※2)。以下は論説の要旨です。
指導的な医学雑誌では、患者への有害副作用に力点を置いて、大
規模臨床試験成績を吟味することが次第に多くなっている。ラン
セット誌のVALUE試験論文は、ハイリスク患者での血圧を下げる
効果をみたものだが、ARBのバルサルタンが、アムロジピン(カル
シウム拮抗剤)との比較で、前もって定めていた心筋梗塞(致死性
および非致死性)の2次エンドポイント(臨床試験における、目標
とする評価項目)において、心筋梗塞を有意に19%増加させている。
著者のひとり(Subodh Verma医師)の患者でもある1人の医師は、
心筋梗塞がバルサルタンで増加するなら、バルサルタンを高リス
クの高血圧患者に処方するに際しては、インフォームド・コンセ
ントにおける必須の構成要素として、そのことを患者に告げる必
要があるとコメントしている。このことはARBと心筋梗塞の関係
をめぐるエビデンスの注意深い検討が必要であることを示してい
る。
あいにく、最近のエビデンスを注意深く評価すれば、ARBはACE
阻害剤(アンギオテンシン変換酵素阻害剤)とは違って、血圧を下
げるという有益な効果にかかわらず、心筋梗塞の発現には変化
をもたらさないか増加させるかのどちらかであることが、示さ
れている。
例えば、CHARM試験は、血圧を減少させたにかかわらず、カンデ
サルタンがプラセボに比し、心筋梗塞を有意に39%増加させるこ
とを示した。SCOPE試験で、カンデサルタンはプラセボに比し、
有意ではなかったが心筋梗塞を10%増加させた。さらに、LIFE試
験では、ロサルタンはアテノロールに比し、血圧を1.7mmHg低下
させたが、心筋梗塞の頻度を減じなかった。腎障害のある糖尿
病患者で行われたRENAAL試験では、ロサルタンが腎保護効果を
示したが、心血管死亡率(患者の30%が心血管イベントで死亡)を
減少させなかった。同様の患者集団で、イベサルタンは腎保護
作用を示したが、心血管イベントの24%の発現率(2次エンドポイ
ント)にインパクトを与えなかった。イベサルタンは、血圧降下
作用を示したが、心筋梗塞、脳卒中、心血管イベントでの死亡
に減少は見られなかった。アムロジピンと比較してイベサルタ
ンは、降圧効果が同じにかかわらず、非致死性心筋梗塞の36%の
増加(P=0.06)、脳卒中の有意でない48%の増加、死亡の有意でな
い29%の増加と関連していた。
心筋梗塞に関するARBのこれらの特徴的な効果は、糖尿病、高血
圧、腎不全、動脈硬化をもった患者で、いつも心筋梗塞が20%な
いしそれ以上減少する成績が得られているACE阻害剤とは対照的
である。
(T)
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