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比較群のない観察研究で貴重な時間を浪費するな

2020-07-29

(キーワード:SARS-CoV-2ウイルス、Covid-19、RCT、医薬品評価、レムデシビル)
 
 昨今、日本の医薬品承認は規制緩和の方向に向かっている。
しかし、COVID-19治療薬やワクチンへの期待が高まる中、比較群無しでは医薬品の有効性・安全性がわからないことや二重遮蔽が重要なことがスポットライトをあびており、このことは昨今の規制緩和への警笛となっている(※1)。 

 この論説は「COVID-19におけるレムデシビル―有効な可能性がある薬剤だが、比較群のない観察研究で時間を浪費するな−」のタイトルである(※2)。
以下に概要を紹介する。
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 製薬業界が後援している、異質な患者集団におけるレムデシビルの無作為化されていないオープンな研究の最近の発表は、covid-19の薬物治療を取り巻く状況を混乱させている。

 レムデシビルの作用機序は、SARS-CoV-1や、中東呼吸症候群の原因であるMERS-CoVなど他のRNAコロナウイルスと共通の治療標的を持っている。MERS-CoV感染などのアカゲザルに対する動物実験では有効性を示唆する結果も出している。

 しかし、in vitroまたは動物での有効性は必然的に人間の結果を予測しない。エボラ出血熱患者681人を対象としたランダム化比較試験でレムデシビルを3つの異なる抗体治療と比較したところ、レムデシビルで治療された175人の死亡率は53%で、最も活性の高い抗体で治療された174人の患者の35%の死亡率よりも有意に悪かった。

 COVID-19に対しては、製薬企業が企画した、コンパッショネートユース使用における成績が報告されているが、コホートのサイズが小さく、フォローアップの期間が短く、プログラムの性質によりデータが失われる可能性があり、無作為化対照群が欠如している。 

 (2020年4月22日)現在、23500人の患者に対して23の研究が試験登録されているが、二重遮蔽試験は4分の1未満で、一部は非対照観察研究である。

 遮蔽されていない対照群のない臨床試験では医薬品が有益であるかはわからない。それがわかるためには検出力のある、適正に遮蔽されたランダム化比較臨床試験が必要である。将来の緊急の必要に備えて標準的なプロトコールを準備しておくことは重要である。それはプラットフォーム試験のような適応力のある (adaptive)試験プロトコールになるだろう。この適応力のあるランダム化比較臨床試験はいくつもの候補治療剤を並行して扱うことが可能で、中間解析の結果で効かなかった薬剤を取り除き、新たな候補薬剤を加えることが可能である。
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 この論説は執筆された時期に注意して読む必要がある。レムデシビルの比較群のないコンパッショネート使用成績論文が猛スピードでNEJM onlineに2020年4月11日に掲載されメディアの注目を集めた。これを受けて同年4月22日にこの論説がBMJ onlineに掲載された。その後、レムデシビルの中国でのプラセボ比較二重遮蔽試験論文が、これも猛スピードでランセットonlineに同年4月29日に掲載された。この二重遮蔽試験ではレムデシビルはプライマリーエンドポイントで有意な有効性を示さなかった。ところが、同年4月29日米国NIHが「レムデシビルがプラセボ比較二重遮蔽試験で回復期間を有意に短縮した」とプレスリリースし、これを受けて同年5月1日、米国FDAはレムデシビルの「緊急使用認可」をした。これは販売が承認された訳ではなく、あくまで未承認薬まま使用が許可されたに過ぎないのである。このNIHのプレスリリースは情報提供不足で、試験が終わったのか終わっていないのかなど混乱をもたらした。この中間解析論文が、これも猛スピードで同年5月22日にNEJM onlineに掲載され、最終論文も近く出版される予定である。

 上記のとおり、レムデシビルは米国では未承認薬のまま緊急使用が許可されたに過ぎない。ところが、日本ではあたかも米国でレムデシビルが承認されたかのように誤解され、その結果日本はレムデシビルを世界で1番早く承認した。このような日本の拙速な対応はさらに問題があると言わねばならない。(G.M)

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