注目情報

  1. ホーム
  2. 注目情報

医学教科書の執筆者が読者に金銭的利益相反を開示していない

2018-07-02

(キーワード: 医学教科書執筆者、金銭的利益相反、情報開示、読者の信頼維持)

 生物医学原著論文や総説での執筆者の利益相反の開示が進展し、標準的慣習(standard practice)として定着してきている。臨床ガイドラインでの利益相反開示もその重要性が指摘され、進展し始めている。これらに比し、ガイドラインと同様、医師の処方などに大きく影響する医学教科書執筆者の利益相反開示が遅れている。

 生物倫理学分野の専門誌AJOB EMPIRICAL BIOETHICS(2018)に、Piper BJ(米国)たちが、「生物医学教科書著者が利益相反を開示していない」の原著論文を掲載しているので、要旨を紹介する。
-------------------------------------------
 生物医学教科書は、医療従事者教育における中心的な存在である。教科書は治療の推奨を含んでおり、教科書でどのように疾病が定義されるかも治療に大いに影響する。ところが、論文や臨床ガイドラインの場合と異なり、生物医学教科書の執筆者たちは金銭的利益相反の開示を通常していない。

 この研究の目的は、医師・薬剤師・歯科医の訓練に用いられる教科書の執筆者たちが、特許企業・製薬企業・バイオテクノロジー企業から報酬をうけとっていながら、読者に開示していないかなりの金銭的利益相反を有しているかを評価することにある。

 生物医学教育の専門家と相談して、研究対象には6つの医学教科書(ハリソン医学書・カッツング&トレバー基礎臨床薬理学・米国骨障害病協会発行の「骨障害医学の基礎」・レミングトン「薬学の科学と実践」・コダ-キンブル&ヤング「応用治療学」・ヤジエラ「歯科医学のための薬理学・治療学」)の最新版が選択された。そして、1152人の執筆者についての特許(グーグルスカラー)と報酬(プロパブリカ医師謝礼開示:ProPublica’s Dollars for Docs, PDD)を調査した。

 677特許の発明者(最も多い執筆者で23特許)がこれらの教科書執筆者として挙がっており、そのうちの4分の3(74.9%)は、ハリソン内科書の執筆者であった。

 2009〜2013年のPDDデータベースによれば、報酬総額は1320万ドル(約13.9億円)にのぼり、大部分はハリソン内科書であった(83.9%)。そのうち最も報酬金額の高い執筆者は87万ドル(約9100万円)であった。

 2014年のPDD2014年データベースによれば、報酬総額は680万ドル(約7.1億円)で、50.4%の教科書執筆者に支払われていた。そのうち最も報酬金額の高い執筆者は56万ドル(約5900万円)であった。分野では循環器学が最も多く、神経学が最も少なかった。女性や薬剤師の執筆者は金銭的利益相反が少なかった。

 かなりの数の生物医学執筆者は特許を有し、製薬企業などから謝礼を受け取っていたが、その事実は教科書読者には開示されていない。これらの所見は生物医学教材の執筆者においても金銭的利益相反の完全な透明性が標準的慣習(standard practice)になるべきことを示している。

 われわれは、金銭的利益相反がない執筆者だけが、総説・臨床ガイドライン・教材を書くことが許されると主張するものではない。利益相反関係が読者に情報開示されていれば、読者はそのことも考慮して自分自身の判断に容易に到達できると言っているのである。開示は巻末などよりも、各章の初めに記載されるのが望ましい。われわれは、利益相反の完全な開示は重要な第一歩に過ぎないとも考える。利益相反の大きな透明性は必要だが、読者の信頼を維持するためには、利益相反の適切な管理が不可欠である。
-------------------------------------------
 「利益相反」とは、公正になされなければならない判断が、金銭的な利害関係や個人的な成功への願望などでゆがめられる可能性のある状況をいう。その対処には、1)利益相反関係の開示、2)行政的規制、3)法的規制、
の3つの選択肢があり、これら3つを正しく組み合わせて用いることが重要とされる(※1)。

 「利益相反関係の開示」はこれらの中でも、読者の公正な判断に必要なもので、原著論文、総説、ガイドラインなど関連するすべての文書で基盤として重要であるが、医学教科書についてはこれまであまり触れられてこなかった。この論文はそうした意味で重要で、貴重な指摘である。  (T)

 

関連資料・リンク等