がん治療剤が有用性を示せなくともFDAの承認は取り消されず、高額な医療費が支出され続けている
2018-04-16
(キーワード: 早期承認、市販後有効性実証試験、失敗した際の取り扱いルールがない)
がん治療剤などを患者に早く届けるために、各国で仮免許ともいうべき「早期承認」がなされている。米国食品医薬品庁 (FDA)の「迅速承認」(accelerated approval) はその代表的な制度で、真の効果が期待できるとされる代替エンドポイントで承認され、効果の実証は宿題として市販後臨床試験で行い、後ほどFDAに提出される。
効果の実証ができなかった場合は承認が取り消され得るとの文言はあるものの、具体的な取り扱いの規定がない。そうした中で実際の状況はどうなっているのだろうか。米国国立ヘルスリサーチセンターのRuppとZuckerman両氏が状況を調査した結果が、 JAMA内科学誌2017年2月号 (177: 276-7)に同誌編集者の論評 (提言、177: 278) とともに掲載されている。以下はそれらの要旨である。
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FDAによる迅速承認のもとに販売された多くのがん治療剤が、臨床的に意味のある便益のエビデンス(科学的証拠)を欠いていることが、医師と患者の治療に関するインフォームドコンセント(十分な説明のうえでの同意)の実効に疑問を投げかけている。KimとPrasadは2008年〜2012年に代替エンドポイント(典型的には、腫瘍の縮小または無増悪生存)のもとに承認された36のがん治療剤のうち、半数の18が市販後試験で全生存期間 (OS) 延長を示せなかったことを報告している (JAMA内科誌2015; 175: 1992-4)。
これら18の医薬品のOS以外の他の便益を明らかにするために、われわれは第3者がレビュー(全体的に吟味)したすべての所見とFDAが行ったQOL (クオリティ・オブ・ライフ: 生の質)についてのレビューサマリーを分析した。公的に入手可能であった15文献において7医薬品がプラセボ(擬薬)または観察群と比較されていた。2つの医薬品(ペグインターフェロンα-2b、カボザンチニブSマレイン酸塩)はQOLに悪い影響を与え4つの医薬品(パゾパニブ塩酸塩、ベバシズマブ、リツキシマブ、オファツムマブ)は統計的に差がなく、1つの医薬品はQOLを評価する尺度により結果が異なった。このように患者アウトカム(患者に対するがん治療剤の真の効果の指標)をQOLで評価した場合も実施されたほぼ全部の研究で効果を示せていない。
がん治療剤はいずれもきわめて高価である。QOLに差がないかQOLを悪くする6つの医薬品の平均コストは年間87922ドル(約940万円)であった。プラセボや観察群と比較してOSの延長やQOLでの便益を示せず、言葉を換えれば重篤な害作用のリスクを与えたにもかかわらず、これらのうち1医薬品を除いてFDAは承認を取り消していない (例外としてFDAは2011年にベバシズマブの乳がん承認を取り消した)。
FDAのさまざまな早期承認の要求事項は、他の医薬品の場合に比して厳格なものでない。しばしば承認の根拠となる臨床試験 (pivotal trial) は1つしかなく、患者数が少なく、追跡期間は短い。そして生存期間(OS)や生の質(QOL)のような臨床的に重要なアウトカムでなく代替エンドポイントで承認される。そのためOSを評価する市販後の臨床試験が通常求められる。しかし、市販後試験のランダム化比較試験デザインは、しばしば試験薬から対照薬に、また対照薬から試験薬にクロスオーバー(交差)を許容することで失われ、試験薬の真の治療効果がわかりにくい。後付けの統計処理で試験薬の治療効果を見ることが行われているが、後付けの解析は本質的に交絡の問題を生じ、とりわけランダム化が崩れた状態ではこのことが助長される。
がん治療剤の新薬が他の医薬品と比較してOSやQOLにおいて統計的に有意な便益がないなら、医師と患者はそれらの新薬を用いるときに安全性面でのリスクとコストを慎重に考量せねばならない。しかし、われわれが今回明らかにしたように、それらのがん治療剤は承認を取り消されることもなく、他の高価ながん治療剤に匹敵する価格で販売を続けているのである(OSを改善せず、QOLを悪化させた最も高価なカボザンチニブSマレイン酸塩は169836ドル(約1820万円)もする)。この状況はがんケア、メディケア(高齢者および障碍者向け公的医療保険制度で、連邦政府が管轄している社会保険プログラム)、そして他のヘルスケアプログラムの費用の高騰をもたらす。
[編集者による論説での改善への提言]
がん治療剤の早期承認制度の3つの改善点を提起したい。
1) 市販後の有用性実証試験は、FDAが現在用いている臨床的な2つの便益であるOSとQOLの「両方」のアウトカムを含まねばならない。
2) 特異的ながん治療剤のクラスに応じたQOLの測定法が、事前に公表され承認されていなければならない。
3) 臨床的に意味のあるOSとQOL測定法における変化が事前に定義され、それらが示されなかった場合の判断を容易にすべきである。
「第一に害をもたらさない」の原則に従って、FDAは臨床的な便益を証明できないがん治療剤の承認をすみやかに取り消すべきだ。これらのがん治療剤を市場から除くことで、それぞれ年間2万〜17万ドル(約220〜1870万円)のコストをがんケアの質と価値の改善に振り向けられる。
注)ペグインターフェロンα-2b(日本商品名ペグイントロン)、カボザンチニブSマレイン酸塩(日本未発売)、パゾパニブ塩酸塩(日本商品名ヴォトリエント)、ベバシズマブ(日本商品名アバスチン)、リツキシマブ(日本商品名リツキサン)、オファツムマブ(日本商品名アーゼラ)
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高価ながん治療剤の問題は、いままさに日本の皆保険制度を揺るがす問題となっている。また、患者に早くがんなどの治療剤を届けるとの名目で、早期承認の動きが国際的に加速されている。この米国の情報は、そうした場合に何が大切か、警鐘を打ち鳴らしていると考える。 (T)
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