ついに始まった;欧州医薬品庁(EMA)が新薬の臨床試験データを積極的に公開
2017-12-16
キーワード:EMA,臨床試験データ,透明性,先駆的政策,企業秘密情報
欧州医薬品庁(EMA)は、製薬会社が販売承認を得るために提出した臨床試験データの公開を開始した。臨床試験情報の積極的公開という画期的政策として注目されるとピンクシート誌2016年10月31日号が報じている。このEMAの新薬臨床試験情報公開は2014年4月に欧州議会で圧倒的多数の賛成で可決し2015年1月1日に発効したもので、以前この注目情報でも取り上げた(※1,2)。以下に要約を紹介する。
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EMAは10月20日、最初の新薬臨床試験情報としてアムジェン社のKiprolis(一般名carfilzomib;多発性骨髄腫に対するオーファンドラッグ)とグルネンタール社のZurampic(一般名lesinurad;痛風における高尿酸値改善薬)の100以上の臨床試験報告をウェブサイト上に一般公開した。26万ページある2つの薬品の臨床試験情報のうち、企業秘密情報はわずか2ページで、患者の個人データを除く他の全情報が公開されている。1年でざっと4500の臨床試験報告にアクセスできるようになるだろうとEMAは見積もっている。申請書を提出すれば、誰でもこれらの情報にアクセスできる。
臨床試験データに広くアクセスできるこのようなシステムは、世界中の規制機関の中でEMAが最初であり、透明性についての世界的な議論を前進させたいとEMAの副責任者は語る。この動きは患者組織やAllTrials(※3)グループなど透明性の提案者らにより呼びかけられたもので、世界中の薬事規制機関がEMAに続くことが期待されている。
この取り組みは、EMAにとっても企業にとっても費用的負担が大きい点、承認申請に必要なデータのほかに、データ利用を可能にするためのデータセットを追加で用意しなければ ならない点、再解析できる形での匿名化するという課題もあるが、結局は誰にとってもよりよい正しいツールであるとEMAは述べている。
公開したデータを競争相手に使用されることをいやがる製薬会社はあるが、透明性をおそれることはない。薬剤や臨床試験の知識を共有することで、開発者は他社の経験を学び、コピー商品を減らし新薬のアイデアを生み出す、より効果的な薬剤の開発プログラムの 創出につながることだろう。EMAは薬品を評価する頑健で強力なシステムを既に持っているが、新しい政策はさらによい正しいツールであるとEMAはいう。
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今回のEMAの取り組みは、第三者が生データにアクセスして再解析ができるようにしたという点で大きな前進といえるだろう。これまでの、臨床試験の事前登録では、結果を見てからの都合のいい解析を防ぐのに最低限必要ではあるが、それだけではスピンを防ぐことは困難である。スピンとは「動機が何であれ、主要評価項目で統計的に有意な違いがなかったにもかかわらず有益性を強調したり、有意差が無いことから読者の注意を逸らさせる特殊な報告戦略」(※4)と定義される論文不正のひとつとして知られる。「企業秘密」としてこれまで非公開、または未出版の情報があまりにも多いなか、基本的に全てが開示され第三者によるレビューが可能となることは極めて重要なことだ。実現可能な方法の点で実務上の課題があるにせよ、このような動きが社会の本流になり、歪められた論文がこれ以上生み出されないことを期待したい。(N)
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※3 Alltrials サイト