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レセプトデータベースを用いた日本での薬物過量服用による入院実態に関する研究 (Journal of Epidemiology電子版2017年3月)

2017-07-18

キーワード:レセプトデータベース、薬物過量服用、ベンゾジアゼピン系薬剤

 日本では、増大する医療費の適正化をはかる手段として、2011年度から医療保険請求レセプトの電子化によるオンライン請求を義務付け、2015年9月には、病院、薬局では99.9%がオンライン請求を実施している。蓄積されたデータ(レセプト情報・特定健診等情報データベース:NDB)は、2014年10月時点で、レセプトデータ83億4800万件、特定検診保健指導データ1億2000万件に達する2)。厚労省は、2006年レセプトデータの利活用に関するガイドラインを策定、2015年よりこれらのデータの民間活用が本格運用となった。NDBという国民が提供する膨大、かつ極めて貴重なデータベースが適正に活用され、改善すべき処方慣行等にメスが入ることを望みたい。

 ここで紹介するJournal of Epidemiologyに掲載された奥村らの論文は、薬の過量服用を防ぐプログラム策定に資することを目的に実施した、2012年10月〜2013年9月の1年間のレセプトデータベースに基づく薬剤疫学的研究である。今後のデータベースの有効活用のための討論を期待し、要旨を報告する。
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 日本では、薬物の過量服用は、救急病院および第3次医療センターへの入院の主要な原因であり、OTCや違法ドラッグよりむしろ処方薬によるものが大部分である。そこで、2012年10月〜2013年9月までの1年間のNDBデータベースを使用し、過量服用により入院に至った全事例を調査した。

 過量服用による1年間の救急入院は21,663人、入院10万人当たり17名であった。女性では、19−34歳と75歳以上にピーク、男性では75歳以上にピークを示した。
最も注目すべきことは、過量服用の処方は、向精神薬が68.1%を占め、47.8%が精神科医から処方されていたことである。

 19歳から49歳の年代では、過量服用による入院前に、61%以上が精神科治療を受けていた。ベンゾジアゼピン系薬剤が60%以上に、バルビツレート系薬剤が12.%に処方されていた。精神科医は、ベンゾジアゼピン系薬剤やバルビツレート系薬剤の処方に際し、意図的過量服用のリスクを十分考慮する必要がある。

 男女ともにピークを示した75歳以上の世代では、過量服用前に精神科治療を受けていた割合は14%に過ぎず、非精神科医によるベンゾジアゼピン系薬剤とジギタリス製剤の処方傾向に注意を促している。ベンゾジアゼピンの処方を受けていた高齢者は59%であり、47%は心不全の既往があり、24%が循環器系薬剤による中毒と診断された。

 高齢者では、多剤処方、重複処方、肝臓や腎臓の障害等、非意図的な過量服用につながるリスク因子が多く、処方に際して、過量服用に配慮することの重要性を示している。

 以上、過量服用防止プログラムのためには、ベンゾジアゼピンとバルビツレート系薬剤の処方を受ける19歳から49歳の年代層の精神科患者、およびベンゾジアゼピン系薬剤とジギタリス製剤の処方を受ける75歳以上の非精神科の患者に焦点を当てることの必要性が明らかになった。
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 薬物の過量服用による入院事例の分析を通じ、ベンゾジアゼピン系薬剤の処方が63%を占めていたことが示された。厚生労働省は、2017年4月にベンゾジアゼピン系薬剤の使用上の注意の改定を通知し、常用量依存症に対する注意を初めて明示した。しかし、実際の使用上の注意の改定の内容は、「漫然とした投与の継続」に対する注意にとどまり、はたして、ベンゾジアゼピン系薬剤の処方の減少や、長期投与の削減につながるかは極めて疑問である。不眠、不安をはじめ、これまで向精神薬が多用されていた諸症状に対して、非薬物的治療による対応が求められており、日常診療の変革が必要である。(N.M.)