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開発後期で失敗した承認申請薬の臨床試験結果の公表は責務である

2017-07-18

(キーワード:臨床試験情報公表、情報公開、被験者保護、情報の透明性)
 
 欧米の医薬品規制庁は医薬品・医療機器の承認にかかわる情報は公益の利益に関わる情報であり企業秘密ではないという方向性を示し、臨床試験情報の公開が進んでいる。しかし承認された医薬品の情報公開は保証されているものの、承認されなかった医薬品の臨床試験データの公開は十分ではない。以下はJAMA Internal Medicine誌2016年1月176巻12号 (オンライン2016年10月10日)の要旨である。連絡責任著者はハバード医科大学のKesselheim氏である。

 1998年〜2008年の間に pivotal trials (承認申請の根拠となるべき臨床試験)に入った認申請薬について調査した。フォローアップは2015年まで行われた。640件の承認申請のうち344件(54%) が承認獲得に失敗した。230件(36%)はFDAで承認され、49件(8%)はEU、日本、カナダ、オーストラリアで承認されたが米国では承認されなかった。17件(3%)はその他の国で承認された。多くの承認申請薬は、癌分野が147件(23%)、循環器分野が102件(16%)、感染症分野が100件(16%)の3分野で占められていた。

 失敗の原因で最大のものは有効性の不十分さで195件(57%)、安全性問題がこれに次いで59件(17%)。74件(22%)がビジネス上の理由(commercial reasons)である。安全性問題で失敗したもののうち10件(17%)は死亡リスクを高めるため試験が中止になり、18件(31%)はがん、脳卒中、敗血症など重篤な害作用に関連していた。5件(8%)は催奇形性に関連し、5件(8%)は発がん性または長期投与試験における重篤な害作用に関連していた。21件(36%)は未公開の安全性問題があり追加の安全性試験が求められた。失敗したもので査読誌に出版さているのは344件のうち138件 (40%)に過ぎない。ビジネス上の理由で降りたとする74件のち、出版されているのはわずか6件 (8.1%)に過ぎない。

 希少疾病用医療薬(オーファンドラッグ)はそれ以外の医薬品に比較し承認された割合が有意に高い(46% vs34%, 調整オッズ比2.3, 95%信頼区間1.4-3.7)。一方、抗癌剤 (27% vs 39%, 調整オッズ0.5, 95%信頼区間0.3-0.9)と中小規模の企業の薬剤 (28% vs 42%, 調整オッズ比0.4, 95%信頼区間0.3-0.7)は承認された割合が低い。

 出版されないものが多いことは重要な倫理的意味合いを有する。第一に多くの患者は疾病の科学的理解に貢献できるとして試験に参加している。研究者と「スポンサー」はこれらの参加者の寄与が尊重されることを確かなものとする責任がある。そのことは試験が失敗した場合も同様である。第二に、ネガティブな結果は、他の承認された同効薬についての新たな洞察を実地臨床に提供する。第三に、不十分な出版記録はトランスレーショナルな医学プロセスを妨げ、有害で無益な臨床試験が行われることにもつながる。アメリカ国立衛生研究所(NIH)は最近承認申請薬のトライアルの結果をclinicaltrials.gov(※1)への掲載を要求する規制を提案している。これが実現すれば出版されない情報にもアクセスできる。
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 失敗から学ぶということは医学分野にかぎらず重要であることは論を待たない。被験者保護からも、承認されなかった医薬品の臨床試験情報こそ重要であり公開されるべきである。論文として出版されることも重要だが、データとして公開されるべきである。非臨床試験(動物実験)のデータも含め情報共有こそが企業にとっても有益なはずである。今後、ビックデータの解析やAIの活用などが進んでいくと思われるが、その基盤には公正な情報公開が必須である。 G.M.


※1 NIHが運営する世界最大の臨床試験登録データベース。有名な医学雑誌はこうしたデータベースに前もって登録した臨床試験でないと論文を受け付けない。

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