エボラ緊急事態下での人に使用前例のない薬剤のランダム化比較試験(RCT)論文がNEJM誌に掲載
2017-03-16
(キーワード: エボラ緊急事態、ヒトに投与経験のある薬剤が不在、RCTの実施と論文発表)
2014-16年に、アフリカをエボラ熱が襲い11,000人を超える死者を出す、未曽有の公衆衛生緊急事態となった。しかし発展途上国の「無視された疾病」のため治療薬の開発は遅れており、ヒトに使用前例のある治療候補医薬品は存在しなかった。世界保健機関(WHO)が緊急の会議を招集、臨床効果が期待される成績が実験室で得られているものを患者の治療に用いることは倫理的に容認されると結論した。
しかし、患者が次々と死亡し医療環境も良くない中で、対照群を置いたランダム化臨床試験(RCT)の是非をめぐって、欧州WHOチームと米国NIH(国立衛生研究所)チームとで意見が分かれた。死亡割合が高い中でプラセボ対照群を置いたRCTは無理という考え方と、対照群がなければ有効性も安全性もわからないという考え方である。医学誌などでも活発な論争があり、後者には数量が乏しい治験薬を公平に分配する観点からの支持もあったが、少数派ともみられる状況であった。
今回唯一行われたRCTである治験薬ZMapp(ジーマップ)の9ページのPREVAIL �胸邯穫席犬�ニューイングランド医学雑誌(NEJM誌)に掲載された(※1)。要旨を紹介する。
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2015年3月、西アフリカのエボラ患者を対象に、現在の標準治療に加えてZMappを投与する群と、標準治療群単独とを比較するランダム化比較臨床試験(PREVAIL �胸邯�)を開始した。標準治療の必要最低条件は、ヘモダイナミックモニタリング(ヘモは血液に関係することを示す接頭語)、静注輸液の供給、臨床検査の実施である。ZMappは3日ごとに計3回点滴静注した。試験デザインはアダプティブ(適応性のある)RCTデザインで、遮蔽については努力したものの徹底はできていなく厳密なものでない。主要エンドポイント(効果の指標)は投与開始28日後の死亡割合である。
被験者は、2群の死亡割合について50%の相対的な差を80%の検出力でみるために、各群100例を目標とした。標準治療群の28日後の死亡割合は40%と推定した。ZMapp群の有効性が言える基準閾値としては、実際に差がないのに誤ってあるとするエラーを片側2.5%として、97.5%と設定した。
試験結果は、試験の途中でエボラが終焉に向かったので、症例はZMapp群36例、標準治療群35例しか集められなかった。28日後の死亡割合は全体で30%、ZMapp群は22%、標準治療群は37%であった。これはZMappが100人を治療して15人の命が救えることに相当する数字であるが、例数が少ないことも影響して事前に設定した97.5%の有効性が言える基準閾値には及ばなかった。
われわれは、ランダム化した対照群のある試験デザインが、エボラ患者でのZMappの安全性と有効性を確立する手段として最も当を得た信頼のおける手段と信じた。今回のPREVAIL �胸邯海虜蚤腓龍�みはランダム化デザインにあるが、弱点としては二重遮蔽でないオープンラベルを含むとともに、予期したよりエボラエピデミックの終焉が早く、十分な症例が集められなかったことがある。
しかしこの公衆衛生緊急事態のなかでもランダム化比較試験を実施できることを示した公衆衛生的な意義は大きいと考える。
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人での使用経験のない未承認薬が現行の治療よりすぐれているとは限らない。このRCTがこの治験薬に関して成功しても失敗しても、著者たちが述べているように、RCTで得られたデータが今後のための貴重な指針を与えるものとなることは間違いない。今回きわめて困難な条件のなかで、米国国立衛生所(NIH)のチームがアフリカ各国政府の協力を得てRCTを行い、代表的な医学誌に詳細な論文として発表したことの意義は大きい。 (T)
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