高価な抗がん剤の価格に関連する情報公開と使用アウトカムデータの公的収集が必要
2016-11-22
(キーワード: 高価薬剤、価格関連情報の公開、使用データ公的収集、がんケア)
治癒をもたらさない抗がん剤の法外な高価格が、保険財政を圧迫し社会問題になっている。解決には何が重要なのだろうか。
オーストラリアの企業などから独立した医薬品情報誌オーストラリアン・プレスクライバー2016年10月号が、“がんケアにおける費用と懸念事項 (concerns)” の記事を掲載している。筆者はメルボルンのがん治療センターの医師で医科大学准教授のイアン・ハイネス氏である。
概要を紹介する。
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最近開発された抗がん剤のいくつかが、これまでにない大きな進歩をもたらしている。転移性悪性黒色腫ではこれまで効果的な薬剤がなかったが、いくつかの新免疫チェックポイント阻害剤の効果が興奮と希望を生み出している。しかし、これらは非常に高価である。
実際のところ, 初期に開発されたがんの標的薬の多くは期待外れのものであった。それらはごく一部の患者にしか適していず、それも平均して数か月の寿命の延長しかもたらさない。臨床試験の対象にされた患者は高度に選択された患者で、報告されたアウトカム(結果)は日常治療している患者に当てはまらない。
これらの薬剤がもたらす効果 (benefits) と比較して費用が高すぎるようにみえる。どのようにしてわれわれは新薬がその要する費用に見合う (cost-effective) ものであると決め、それらに支払いをできるのだろうか。
悪性黒色腫の新薬は1人の患者当たり50万豪ドル(約3900万円)以上かかる。治癒することはなく、1年以上生存する患者がないわけではないが、平均して無増悪生存または全生存を数か月延長するに過ぎない。そして効果を予測するバイオマーカーもない。
FDAが2002年から2012年の間に承認した固形がん治療剤による生存期間延長の中央値はわずか2.16か月である。2012年に承認した抗がん剤12のうち、生存期間を延長したのはわずか3つしかない。その3つのうち2つは2か月以内の延長であった。しかし後の9つの抗がん剤の価格は月に1万米ドル(約100万円)以上であった。
価格は価値を反映するのが道徳的かつ倫理的である。しかし現実では抗がん剤の価格は「市場が耐えられる、または買う方が払う意志がある」ものを反映するという、自由市場経済の機能で決められている。
オーストラリアで高価な新抗がん剤に公正なアクセスを維持する政府のプログラムを考えるなら、すべての医師と科学者はこれらの新薬のデータに関するより高度な情報公開を求めねばならない。またこれらの薬剤を用いたすべての患者に対するアウトカムについて、個人を特定できない形での公共的なアクセスが可能となるよう求めねばならない。不必要な医療費支出を減じ増税を回避するために、目標を定めた財政的支援についての公の議論を深めねばならない。
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ここで指摘されている新薬の価格に関連するデータ公開と高価な抗がん剤を使用した患者のアウトカムについての公共のデータ収集とアクセスは、日本においても重要である。
とりわけ、日本で薬価を決めている中央社会保険医療協議会(中医協)における薬価算定過程の情報公開が遅れており、密室協議 (ブラックボックス) で決められている。新薬の薬価の算定根拠・基準が明確でない上に、薬価算定の根幹部分を議論している薬価算定組織の議事録が公開されていない。薬価算定の意思決定を検証できず、公開は急務である。 (T)
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