禁煙補助剤チャンピックスの黒枠警告は取りやめるべきでない (米国パブリックシティズン)
2016-11-22
(キーワード: バレニクリン、チャンピックス、精神神経学的害作用、米国添付文書、枠組み警告、削除の是非)
これまで7年間にわたりバレニクリン (Chantix, 日本商品名チャンピックス) の添付文書には、枠組み警告が置かれている。警告は36行にわたり、バレニクリンを服用した患者に重篤な精神神経学的有害事象が報告されていること、効果と安全性のリスクを比較検討して慎重に用いるべきことが書かれている。
FDAは2009年7月製造販売企業のファイザーに、枠組み警告の追加と安全性に関する市販後比較臨床試験の実施を指示していた(※1)。ファイザーは8000余症例のEAGLES試験を行い、2016年6月ランセット誌にバレニクリンが精神神経学的有害事象を増加させないとの論文を掲載するとともに、FDAに枠組み警告の削除を求めた。
2016年9月14日、この枠組み警告を削除するのが適切かどうかを審議するFDA精神薬理学的医薬品・医薬品安全性リスク管理の合同諮問委員会が開催された。直前の公聴会で、パブリックシティズンのアルマシャット医師は枠組み警告を取りやめるべきでないという意見を述べた(※2)。
要旨を紹介する。
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枠組み警告は、2009年に自殺念慮、精神神経学的事象などのおびただしい数の市販後有害事象報告があって添付文書に記載されたものである。2006年の承認以来、少なくとも4701例の精神神経学的事象がFDAに報告されている。
今回EAGLES試験というファイザーが行った一つの臨床試験結果のみで、枠組み警告の削除が求められている。EAGLES試験には、バレニクリンによる精神神経学的害作用のリスクの増加を明確に検出できないという根本的な欠陥がある。
EAGLES試験は、バレニクリンとプラセボとの間の、精神医学的症状の既往のない患者では2.63%、既往のある患者では5.25%の、事象発生率の差を検出するようデザインされている。しかしここで推定されている事象発生率は高過ぎる。
2006年から2015年の間に1,740万の患者がバレニクリンを服用している。FDAに報告された有害事象が実際の10%とみれば、発症率は0.03%である。これはFDAが抗てんかん剤の添付文書に記載を求めた自殺念慮の発生率(プラセボに比し0.19%のリスクの増加)と同程度である。二重遮蔽試験ではバイアスが減じるが、なお研究者によるアウトカム(結果)の誤分類の可能性は存在する。これにより群間の事象発生率の差異が小さくなり、実際には差があるのに見逃してしまう誤り(タイプ2のエラー) が増加する。
今回のような安全性試験で、実際の発生率が非常に小さい場合にこのことは極めて重要である。今回も数字を見ればバレニクリンの発症率はプラセボに比し大きい。まれな有害事象を問題にする臨床試験において、比較的数の少ない事象の誤分類と検出の失敗は最終アウトカムに重大な影響を及ぼし得る。
最後に、諮問委員会は、数千の精神神経学的有害事象の報告に基づいて記載された枠組み警告の削除は、前例のない重大なことであることを熟慮していただきたい。枠組み警告がなくなれば患者とかかりつけの医師は命を脅かす精神神経学的害作用のリスクをほとんど意識しなくなるだろうことに十分留意いただきたい。
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日本のバレニクリン(チャンピックス)の添付文書に赤字で印刷されている「警告」は、米国と比べ非常にあいまいで、同じファイザーであるのにダブルスタンダード(二重基準)となっている。
米国の添付文書の枠組み警告(重篤な精神神経学的有害事象)は、「バニレクリンを服用した患者に〜のような重篤な精神神経学的有害事象が報告されている」の文章からはじまっているが、日本では「禁煙は治療の有無を問わず様々な症状を伴うことが報告されており、基礎疾患として有している精神疾患の悪化を伴うことがある」が第一に来ており、警告の形をなしていない。
薬害オンブズパースン会議は、2009年にバレニクリンの安全対策の強化を求める要望書を2回にわたり提出した際、警告の冒頭の記載を削除するように求めているが改善されていない。
今回、FDA合同諮問委員会が枠組み警告の削除について採決した結果は、賛成10、警告の文章の修正4、反対5、棄権0であった(※3)。この結果を受けてFDAがどのような決定をするか注目される。 (T)