タミフルの害反応 −基礎医学的根拠から詳細な関連を示す2つの国際論文が出版される
2016-11-22
(キーワード:オセルタミビル、タミフル、突然型反応、遅発型反応)
タミフルの突然型反応と遅発型反応について、NPO法人医薬ビジランスセンターの浜六郎氏は、基礎医学的根拠からその関連性を詳細に明らかにした2つの総説論文(※1、※2)を国際専門誌に発表した。
以下にその要旨を紹介する。
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[第1論文] 突然型害反応については、未変化体のオセルタミビルは、臨床的、疫学的に得られた知見――低体温や異常行動、特に死亡に至る異常行動、突然死――につながる様々な中枢神経系に対する作用を有する。中枢神経系に関連する受容体や酵素のうち、いくつかでオセルタミビルとの関連が証明されている。ニコチン性アセチルコリン受容体の阻害作用は本剤の体温降下作用と関連がある。モノアミン酸化酵素-A(MAO-A)に対する阻害作用は異常行動や興奮性の行動と密接に関連がある。呼吸抑制とその後の突然死や、精神病反応(急性・慢性)に関連した受容体/チャネルとしては、GABAA やGABAB 、NMDA、さらにはこれらと関連のある受容体/チャネル、たとえばNa+やカルシウムチャネルなどが候補として考えられる。タミフルには中枢神経系の抑制作用と刺激作用があるが、リレンザ(ザナミビル)にはない。このことが、タミフル使用後に、その使用と密接に関連した異常行動や、呼吸抑制に伴う突然死が生じうる要因である。
[第2論文] 遅発型害反応の発症機序について、最近のコクランレビュー(2014)では、抗体産生の低下、腎障害、高血糖、精神障害の増加、QT間隔の延長がオセルタミビルの使用に関連しうることを報告した。本論文では遅発型害反応の発現機序について検討した。ヒトはもともと体内にノイラミダーゼ(内因性ノイラミニダーゼ)を持っている。人の内因性ノイラミダーゼを阻害すると、免疫システムや代謝系(高血糖や糖尿病)、腎臓、心臓および神経細胞など、さまざまな細胞機能が阻害される。このため、さまざまな臓器・システムに障害が生じ、害作用と密接に関係している。通常用量のザナミビルにはこの作用はないが、ザナミビルおよびその他のノイラミダーゼ阻害剤をより高用量または長期使用すると、抗体産生やサイトカイン産生の低下など同様の遅発型反応を誘発しうる。
コクランレビューでは、ノイラミダーゼ阻害剤が肺炎や入院を減らさないという知見を得たが、その理由は遅発型反応の発症機序と密接に関係している。ノイラミダーゼ阻害剤は、インフルエンザウイルスのノイラミダーゼを阻害することでインフルエンザの症状を緩和すると、一般的に信じられている。しかし、臨床用量相当量のオセルタミビルを、ノイラミダーゼをもたないRSウイルスに感染させたマウスに投与すると症状が緩和されるが、ウイルス消失が阻害される。この現象は、オセルタミビルが宿主の内因性ノイラミダーゼを阻害し、ヒトの体内の免疫を抑制するという機序で説明できる。免疫細胞(T細胞表面)のスフィンコゴ糖脂質(ガングリオシド)GM1が減少し、炎症性サイトカインの誘導が低下し、ウイルス量が有意に減少することなく症状が緩和する。しかし、免疫反応の抑制は再感染、肺炎の罹患、他の感染症の憎悪につながり危険である。
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最近HPV感染予防ワクチンの害反応に関連した動物試験論文が査読誌に掲載された後、利益相反のある編集者によって不当に撤去されるという事件があった(※3)。
浜氏による上記2つの論文も、利益相反があると思われる査読者による判断で論文掲載に困難を極めた後(※4)、2016年6月にようやく出版されたものである。なお、2つの論文の日本語記事は「薬のチェックは命のチェック」インターネット速報版No.170(※4)に掲載されている。
WHO(世界保健機関)などによりタミフルの備蓄が大規模に推進され、タミフルの害作用情報が隠匿されたり、伝達が妨げられている状況のなかで、コクランレビューに次いで、今回の突然型、遅発型害作用の発生機序を明らかにした2論文の国際誌への掲載が実現したことの持つ意義は大きい。(H)