透明性は良い、製薬企業からの独立はもっと良い!
2016-11-22
(キーワード)製薬企業、行動規範、透明性、企業からの独立、情報資源
オーストラリアでは、医療従事者に対する薬の販売促進活動は製薬企業の自主的な規制制度によって管理されているが、製薬企業団体「医薬品オーストラリア」の行動規範が改訂(18版)され、オーストラリア競争と消費者委員会(ACCC)により2016年4月に承認された。
オーストラリアン・プレスクライバー誌は2016年8月号の論説で、改訂倫理コードについて透明性の強化と公正性の観点から解説している(※1)。
以下に要約を紹介する。
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医薬品オーストラリアが監督する倫理コードは、メンバー企業が販売するに処方薬を対象としている。倫理コードの最新版(18版)は医療専門家への支払いに関して多大な透明性を要求している。新しい要求事項は、医療と消費者組織の長期間にわたるとりくみやオーストラリア競争と消費者委員会(ACCC)の圧力によって、ただ他国にならってしぶしぶ採用したものだ。
その内容というのは、講師料や助言委員会の謝礼、または検討会の主催などに対する妥当な対価としての人、物、金に関して報告され、そこに一般の人々がアクセスできるという内容である。
これまで医療専門家が名前を公表したくなければしないことを選択できる「オプトアウト」条項があったが、2016年の10月には支払報告が義務化される。2016年8月より、各会社のウェブサイトに行けば支払の情報は利用可能であるが、1つのサイトから医療専門家に対する全企業の支払が検索できるデータベースについては協議中である。
一方でまだまだ不満足な点もある。接待費用の報告義務をなくし、1回につき120ドルまでなら、接待を受けた医師を記録も報告もしなくてよいことにしたのだ。
低額でも回数をまとめれば相当な額にまで積み上がる。これでは支払いの重要な部分が把握できない。
専門家の育成支援や会議主催、助成金などについて、医療機関との関係を明確にしていないことや、調査研究に関連する支払いについても懸念がある。
多くの市販後調査は主要な販売戦略で、種まきスタディとして知られる。臨床試験にオピニオンリーダーを参加させることも重要なキー戦略だ。薬剤の利用に関する情報の作成に関する支払等については、企業秘密であるとし、製薬企業は公開に激しく抵抗している。
もう一つの製薬企業団体であるジェネリックとバイオシミラー薬協会(GBMA)にこの規範が適用されないのも重要な問題だ。GBMAは2014−2015年に、薬剤師への無償資材提供に220万ドルを超える資金を使い、30万ドル以上を教育企画に費やした。ジェネリック薬やバイオシミラー市場がオーストラリアで急成長を遂げているなか透明性増大に逆行するものだ。
製薬企業から提供された情報が処方を改善するという証拠はない。医薬品の販売促進は常に処方医をより新しい、より高価な、時としてよりリスクの大きい薬剤を選択するようしむけることを目的としている。オーストラリア医薬品ハンドブック、治療ガイドラインやオーストラリアン・プレスクライバーなど、医療専門家が相談できる独立した広範囲の医薬品情報を含む独立の情報資源がオーストラリアにはある。すでに多くの医療専門家と組織は製薬企業から独立であることを選択している。
The No Advertizing Please(広告おことわり)キャンペーンは2014年に医療専門家のグループと教育機関によって設立され、オーストラリア最大の消費者組織であるオーストラリア消費者健康フォーラムからの強力なサポートを勝ち取った。医師は1年間「彼らと会わない」ことを宣誓する。
このキャンペーンのウェブサイトは、エビデンスを調査できる包括的な情報を提供し、医師らを励ましている。医薬担当者と会う医師の方がより多くの薬剤、より高価な薬剤を処方し、臨床ガイドラインにあまりそっていないことも示されている。透明性は良いことだが、製薬企業からの独立は患者の健康と医療システムにとってさらに良い。
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製薬企業から医療専門家への支払に関しては、米国のサンシャイン法をはじめ英国、我が国においても開示がされるようになった。それぞれに不十分な点を多く含みながらではある(※2-4)。
これらの支払費用の公開が利益相反の抑止につながっているかといえば、疑問である。これらの支払の対価として生成される企業に都合のよい情報は、著名・高名な医師の権威と信頼を伴ってMR(製薬企業の医薬情報担当者)を通して拡散され浸透している。
MRの悪い影響については本注目情報でもたびたび取り上げてきた(※5,6)。本論説で述べられているように、透明性よりももっと重要なのが企業からの独立ということだ。
日本で製薬企業から独立した医薬品情報を探すのは本当に大変である。良質な情報を得る情報資源を持っていなければ、MRと会わないと宣言するのは勇気のいることかもしれない。個々の医師の努力では限界があろう。このようなキャンペーンを全国的に進めて医療現場からの変化を起こしたいものだ。
まずは、情報公開が進んだ国の情報やISDB加盟の医薬品情報誌(※7)の紹介といった活動をこれまで以上に強化する必要性を痛感している。(N)
- 関連資料・リンク等
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- ※1オーストラリアン・プレスクライバー誌は2016年8月号
- ※2 英国で新たな企業から医師への支払いデータ情報開示システムがスタートしかし問題が(2015-08-15)
- ※3 米国の医師への支払い情報公開(サンシャイン法)(2013-09-19)
- ※4 「企業活動と医療機関等の関係性に関する透明性ガイドライン」に関する意見書
- ※5 MRの有害な影響を過小評価すべきでない(2014-01-09)
- ※6 MRに対する規制の厳しいフランスの医師は、米国やカナダの医師よりもバランスのとれた医薬品情報を入手できる(2011-2-25)
- ※7 ISDB(国際医薬品情報協会;医薬品情報誌の国際組織1986設立)