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産婦人科医の娘は積極勧奨中止後にHPVワクチンを受けていない

2016-11-22

[キーワード:子宮頸がん、HPVワクチン、産婦人科医、定期接種、接種勧奨]

 HPVワクチンは、日本では2013年4月から、小学校6年生〜高校1年生女子(標準的接種年齢は中学1年生)を対象としたA類疾病の定期接種となり、予防接種法に基づき市町村が接種を受けるよう勧奨しなければならないものとなった。

 その後、接種後の全身の痛みやしびれ、記憶障害などの訴えが相次ぎ、同年6月には、定期接種の位置づけはそのままに積極的な接種勧奨(広報紙やポスター、インターネットなどで接種を受けるよう勧奨することに加え、標準的な接種期間の前に接種を促すハガキ等を各家庭に送る、さまざまな媒体を通じて積極的に接種を呼びかけるなどの取り組み)(※1)は差し控えるという事態に至り、このような曖昧な状態は2016年11月現在も続いている。

 また、定期接種になる前から公費助成などの対策が行われたことにより、接種対象年齢の女子のHPVワクチン接種率は7-8割にまで達していたが、現在ではほぼゼロに近くなっていると言われている。

 大阪大学と新潟大学の産婦人科学講座の医師らは、産婦人科医を対象に、HPVワクチンに関する個人的見解や自身の娘に接種したか、などに関する質問紙調査を行い、結果を日本癌治療学会による英文誌International Journal of Clinical Oncology2016年2月号(※2)に報告した。その概要を紹介する。
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 調査は2014年8月、大阪大学病院とその関連病院で研修を受けた産婦人科医師575人を対象に行われ、264人(46%)が回答、そのうちの56人に12歳〜20歳の娘がいた。この56人において、娘がHPVワクチン接種を受けたかどうかを確認したところ、2013年6月の積極的接種勧奨差し控えの後に接種した娘はいないという結果が明らかとなった。

 2014年時点(積極的接種勧奨差し控えの後)と2012年時点(積極的接種勧奨差し控えの前)における娘の年齢別での接種者割合(%)は、以下表のとおりであった。

2012年時点の年齢   接種割合     2014年時点の年齢   接種割合
−            −       12歳           0%
−            −       13歳           0%
12歳         42.9%      14歳          42.9%
13歳         25.0%      15歳          25.0%
14歳         83.3%      16歳          83.3%
15歳         83.0%(*)   17歳          91.7%
16歳         100%       18歳           100%
17歳         80.0%      19歳          80.0%
18歳         83.0%      20歳          83.0%

(*)印は本文中に記載がないため論文の図から推定した値
 

 2012年で15歳、2014で17歳の年代では2012年から2014年にかけて接種割合が若干増加しているものの、その他の年代では、2012年から2014年になる間に接種割合は全く増えておらず、また、2014年に新たに接種対象年齢となった12、13歳の接種割合も0%であることから、2013年を境に、新たに接種した娘はほとんどいなかったことが示されている。著者らも、2013年6月の積極的接種勧奨差し控えの後に接種した娘はいなかったと記載している。

 一方で著者らは、HPVワクチンに対する見解についての回答では、264人のうち172人(65.2%)が10代へのHPVワクチン接種を勧めるとし、161人(61.0%)が、国は接種勧奨を再開すべきと回答したと報告している。

 著者らは、メディアによる副作用報道や国による積極的接種勧奨差し控えが産婦人科医の娘へのHPVワクチン接種行動に影響を及ぼしており、積極的接種勧奨の再開が求められるとしている。
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 日本における一部の大学病院関連の産婦人科医を対象とした調査ではあるが、副作用報道や国による積極的接種勧奨の差し控えがなされた後には、自身の娘にHPVワクチンを接種した医師は一人もいない、にも関わらずその医師たちの6割以上がHPVワクチンの10代少女への接種を推奨するという見解を持っていることが示された。
 自身の娘には接種しないと判断するものを、なぜ10代少女には推奨できるのか? 医師の専門家としての倫理観や自主性はどこへいってしまったのだろうか? (Y)