FDAプレスリリースの「画期的新薬」「有望新薬」の言葉は市民に過大の期待をもたらす―ランダム化比較模擬試験
2016-02-10
(キーワード: 行政が用いる言葉、言葉の与えるインパクト、現実とのギャップ、ランダム化模擬比較試験)
行政が印象の強い言葉を用いた場合には市民に過大の期待をもたらす可能性がある。予期されるそうした誤解をランダム化比較模擬試験で実証した試験結果が、JAMA内科学誌2015年11月号に掲載された。
以下はその要旨である。
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普段使われる言葉では、「画期的」(breakthrough)は重要で決定的な進歩を暗示する。2012年にFDA安全及びイノベーション法（The Food and Drug Administration Safety and Innovation Act）が制定されて以来、FDAは「重篤又は命を脅かす疾病を治療する」および「在来の治療に比べ相当な改善を証明する可能性のある」医薬品候補について、実際にはその後実証試験を行って確認しなければわからないことであるのに、比較対照のない試験や代替エンドポイントでの試験結果のみに基づいて、「画期的指定」を行うことができるようになった。そうした医薬品候補は検証は市販後で構わない「迅速承認」(accelerated approval)をしばしば受ける。
画期的新薬指定を受けた医薬品候補が承認されれば、すべてのFDAプレスリリースが「画期的な」の言葉を、さらに約半数が「有望な」(promising)の言葉を用いているのが実情である。患者はインターネット検索や報道で、これらのプレスリリースに容易に接する。患者がFDAの用いる言葉の正しい意味を理解していないなら、医薬品のエビデンスに過大な信頼を寄せる結果につながるだろう。われわれはランダム化比較模擬試験でこれらの言葉が一般市民の判断(lay judgments)に与える影響をテストした。
アマゾンのオンラインサービスを利用して、597人の米国人をリクルートした。参加者は10分間質問に答えることで1ドルの謝礼を受けた。参加者は、架空の「画期的指定」転移性肺がん治療剤Zykantaについての5つの異なったプレスリリースのいずれかの群にランダムに割り付けられた。Zykantaは腫瘍が縮小したという代替エンドポイントで迅速承認されたと設定されている。
5つのプレスリリースは、
1） 試験結果の有効性安全性について事実のみ報道
2） 事実に加えてFDAが「有望薬」と呼んでいることを報道
3） 事実に加えてFDAが「画期的治療薬」と呼んでいることを報道
4) 「画期的治療薬」とされていることとともに、実際にこの適応が確定するかどうかは検証試験の結果を待たねばわからないことを報道
5) 「画期的治療薬」とされていることとともに、この適応が検証試験の結果で確定されることを報道
である。
ちなみに、4) はFDAが医療専門家向けの添付文書で用いるよう求めている表現である。
結果は「有望薬」ないし「画期的治療薬」の記載を加えることで、事実のみを伝えた場合と比較して、医薬品が「非常に有効」ないし「十分に有効」と受け取る人の割合が有意に増加した(割合は事実のみ伝達11%と比較してそれぞれ23%と25%)。医薬品をサポートするエビデンス(科学的証拠)が「強い」あるいは「きわめて強い」と信じる人も有意に増加した。医薬品の安全性についての受け取り方も同様であった。これらのインパクトは、医療専門家向けに添付文書に記載される実際の意味や扱いを示す情報を合わせて伝えると緩和された。
これらの結果から、FDAのプレスリリースが中立的な言葉でなされ、迅速承認の持つ意味が正しく伝えられれば、消費者がこれらの医薬品をもっと正確に判断できると考えられた。
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このランダム化模擬試験の結果は予期されたものであったが、エビデンスとしてはっきりと示されたことに意義がある。行政がそれらを裏付けるエビデンスがない状況で「画期的」「有望」といったインパクトの強い言葉を用いることは不適切で、してはならないことである。
日本には「先駆け審査指定制度」というものがある。これは、�ーＮ徒瑤硫茣�性、��対象疾患の重篤性、�Ｂ仂歇栖気坊犬覿砲瓩胴發ね�効性、�だこΔ棒莇遒韻篤�本で早期開発・申請する意思があることを要件として、承認審査における優先的な取扱いがなされるようにする制度である（※１参照）。厚労省も「一定の要件を満たす画期的新薬等」という表現を用いており、ＦＤＡと同様の問題が懸念される。 (T)
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