パブリックシティズン、米国医学生連盟、コンシューマーユニオンなどが「21世紀治療法」草案に賛成しないよう議会に要請
2015-08-10
(キーワード: 米国「21世紀治療法」草案、公衆衛生リスク、7団体が議会に反対要請)
2015年1月米国下院に新薬と新医療機器の開発・上市の促進を意図する「21世紀治療法」草案(H.R.6)が提出され、エネルギー通商委員会において5月21日に全会一致(51対0)で可決された。法案は6月末に下院を通過して上院に送られ、2016年初頭には大統領署名で成立するよう意図されている。
この草案に対し大学・病院分野ではJerry Avorn, Aaron S Kesselheim両医師がNEJM誌2015年6月15日号に、ランダム化比較試験などの厳密な方法で新薬の有効性安全性を確認して上市を承認してきたことなどに反し、時代を逆行させるものでないかと批判する論説を掲載している(※1)。
全米医師連盟、パブリックシティズン、米国医学生連盟、トリートメントアクショングループ、エイズユナイテッド、ナリッジエコノミーインターナショナル、慢性疾患若手専門家ネットワークの7団体が共同して、5月19日下院議員メンバーに対し、「21世紀治療法」草案に賛成しないよう要請する書簡を送っているので紹介する(※2)。
以下はその要旨である。
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米国の「21世紀治療法」草案は公衆衛生に対する大きなリスクを含んでいる。われわれは様々な疾患に対する新たな治療法の必要性に関心を持っている。しかし、この法案は、安全性や有効性を欠く医薬品などの上市を許し、患者に有効な医薬品へのアクセスを困難にする。われわれは共同して、議会に草案に賛成しないよう要請する。われわれはとりわけ次の点を危惧する。
1. 法案は医療機器の安全性と有効性を確保するFDAの法的資格を掘り崩す。
2. 法案は抗生剤、抗真菌剤がFDA基準を引き下げて承認されるのを可能にし、患者に安全性有効性を欠く医薬品で治療するリスクをもたらす。
3. 法案は細菌がいつ抗生剤耐性を獲得するかを定義するプロセスに金銭的利益相反をもたらし、新薬の過剰使用と誤使用を促進し、新抗生剤に対する耐性の出現を加速する。
4. 法案は医師支払サンシャイン法に報告を要求されている事項を弱め、医薬品と医学教育の実地において製薬企業や医療機器企業からの表に出ない影響行使を可能にする。
5. 法案は病院が抗生剤の適切な使用よりも新薬を使用するインセンティブをもたらすことにより、抗生剤に耐性をもつ細菌(superbugs)の出現を早める。
6. 法案はジェネリック医薬品の登場を長く阻害するだけでなく、患者が受けることのできる命を救う医薬品へのアクセスを否定する。
われわれは議会が公衆衛生に真の深刻な危険をもたらすこの法案に賛成しないことを要請する。
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Aborn医師たちは、医薬品の承認が厳格なエビデンスの確認によってではなく、観察研究、レジストリー、治療経験などの臨床経験でのエビデンス、代替エンドポイントにもとづいてなされることを危惧している。また、これまで医薬品と比較し厳格なエビデンスが求められていないと批判のあった医療機器について、新法ではハイリスクの医療機器でも治療経験など臨床経験でのエビデンスでの承認が可能となると危惧している。またインフォームドコンセントについても、「小さなリスク」は説明しなくてもいいとの新たな条項が加わるが、だれが明確に「小さなリスク」と決定するのかを危惧している。それらは、問題を克服してきた前世紀に時代を逆行させるものと批判している。
上記第4項の、「法案は医師支払サンシャイン条項に報告を要求されている事項を弱め、医薬品と医学教育の実地において製薬企業や医療機器企業からの表に出ない影響行使を可能にする」との指摘も重要である。法案のセクション3041は、医師支払サンシャイン法に新たな除外事項を設けることを提案している。すなわち製薬企業・医療機器企業は、医師への支払いが生涯医学教育(CME)推進を意図するのであれば、医師の講演料や謝礼について金額にかかわらず報告しないでよいとするものである。 (T)