FDA諮問委がアストラゼネカと武田のDPP-4阻害糖尿病治療剤に心不全リスクの記載を求める
2015-08-10
(キーワード: DPP-4阻害糖尿病治療剤、心不全リスク、添付文書記載、FDA諮問委員会)
糖尿病治療剤の本来の目的は、死亡に至る最大の原因である心血管合併症を減少させることにある。しかし、そのようなエビデンスを示すデータがほとんどないままに、新規糖尿病治療剤は代替エンドポイントである短期的な血糖降下作用のみで、次々と販売承認されている。
2015年4月、FDAの諮問委員会は、多用されているDPP-4阻害糖尿病治療剤オングリザ(サキサグリプチン)とネシーナ(アログリプチン)に共通してみられた心不全リスクについて、多数の賛成で添付文書に安全性情報として記載するよう推奨した。この最近の動きをスクリップ電子版2015年4月15日号が伝えているので、要旨を紹介する。
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FDA内分泌代謝薬剤諮問委(EMDAC)は、2015年4月14日、FDA当局に対し、アストラゼネカ社と武田に対し、DPP-4阻害糖尿病治療剤オングリザ(一般名:サキサグリプチン)、ネシーナ(一般名:アログリプチン)とそれらに関連する配合剤に、添付文書への新たな安全性情報として心不全リスクの記載をさせるよう求めた。
FDAは、新規糖尿病治療剤に心血管アウトカム試験(CVOTs)を必ず行うよう要求している。アストラゼネカ・武田両社はそれらのデータを提出した最初の企業であり、EMDACは提出されたデータをレビューした。EMDACの今回の要求は、今後審議される他のDPP-4阻害糖尿病治療剤に対しても意味を持つ可能性がある。それらにはメルク社のジャヌビア(一般名:シタグリプチン、CVOTsデータを2015年6月に提出予定)、ベーリンガーインゲルハイムとリリーのトラゼンタ(一般名:リナグリプチン)が含まれる。
問題になっているのは心不全による入院の増加と、データは明確でないが腎系統への害作用である。
オングリザでは、心不全リスクなどの安全性情報を添付文書に追加することに、15人の委員中14人が賛成した。賛成しなかった唯一の委員は、EMDACに消費者代表として参加している女性心臓基金の理事長のBonnie Arkus氏である。同氏は、心不全リスクの追加記載をしなくてもよいという立場ではなく、オングリザは市場撤去されるべきとの立場から賛成しなかったのである。ネシーナでは、心不全リスクなどの安全性情報を添付文書に追加することに、16人の委員中13人が賛成した。
これらの薬剤の心血管リスクは許容範囲内かについての審議の評決において委員たちは、オングリザについては13対1(棄権1)、ネシーナについては16対0で、リスクが許容範囲内との判断に賛成した。
ネシーナとその配合剤について、市場からの撤去や使用制限を求めた委員はいなかった。
コロラド大学の循環器学教授の William Hiatt 氏は、DPP-4阻害糖尿病治療剤が実際に生存期間を延長するか今後の臨床試験に関心をもっていると発言し、生存期間を延長しないということであれば糖尿病コミュニティは代替エンドポイントである短期的な血糖降下作用が何を意味しているか説明することが必要であると考えると述べた。
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新規糖尿病治療剤が逆に心血管リスクを増すデータが問題となり、FDAは、2008年、心血管リスクの増大が30%の許容範囲内にとどまることを示す臨床試験結果を示すようすべての新規糖尿病治療剤に製薬企業へのガイダンスで求めた。日本の厚生労働省・PMDAが今でもそうしたことを求めていないのに対し、FDAの動きは、心血管リスクに注意を向けている点で幾分ましと言えるが、当該リスクを減少させることが本来の目的であることからすればやはり問題である。当会議は、心血管リスクを減少させるという糖尿病治療剤の本来の目的を離れた奇妙な状況になっていることについて、これまでも注目情報で度々注意喚起してきた(※1-4)。
FDAの諮問委員会が、DPP-4阻害剤オングリザとネシーナに共通してみられた心不全リスクについて、多数の賛成で添付文書に安全性情報として記載を推奨したことは注目される。
この日の諮問委員会において、FDAはオングリザについてはレビューの結果、心不全リスクがあり、すべての原因による死亡のリスクを増大させる可能性も存在すると報告した。一方、ネシーナにはそうした傾向はないとした。メディアは、このオングリザについてのFDAの分析結果に注目し、記事にしているようである(※5)。
糖尿病治療剤は、際限のない膨張にどこで歯止めをかけるのか(※3)と言われる状況にあるだけに一層の監視が求められる。 (T)